街の景色、夜 (短文詩作)

春嵐

第1話

 彼はまだ、生きているだろうか。

 いつもの、交差点。街の景色は、いつもと変わらない。夜のなかに、信号が明滅するだけ。


 人通りも、車もない。静かで誰もいない、夜の街。彼と会ったのも、こんな静かな夜だった。


 彼は、私にとっての、非日常だった。私が日々を過ごすために捨ててきたものを、彼はすべて持っていた。


 そんな彼も、今は、もう。私の隣にはいない。夜の街にひとり。静かに放り出されている。彼のいない日常のつまらなさを、味のしなくなったガムを噛み続けるみたいに、生きているだけ。彼という美味しい何かを、待ち続けている。


 街の景色。夜。彼はいない。

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