鍵を落としたら 2人用台本
ちぃねぇ
第1話 鍵を落としたら
0:自分の家の前で立ち尽くす男。
男:…マジかよ…え?なんで?嘘だろ…
0:隣の部屋から出てきた女。
女:こんにちわ
男:あ、はい…こんにちわ
女:……あの……お隣さんですよね。どうかされましたか?
男:え
女:…実はちょっと前から玄関先で物音がするなって思ってて
男:あ、いや、すみません……実は…家の鍵、無くしたみたいで
女:ええ?大変じゃないですか!…ご家族の方とか他に鍵持ってる方、どなたか連絡つきます?
男:独り暮らしなので他は誰も……あ、でも多分、大丈夫ですから!鞄ひっくり返せばそのうち
女:そう、ですか…それでは
男:はい、どうもすみません
0:女退場。しばらく探すがやはり鍵が見つからない男。
男:マジか。なんでだよ…職場か?…即日鍵交換してくれるとこあるかな…それか満喫行くか…?
女:あのう
男:わ、お隣さん!
女:…まだ見つかってない感じですよね?
男:……はい
女:多分もうすぐ雨降りますよ、雨雲レーダー見てる限り
男:マジっすか
女:はい。あの………玄関先じゃ冷えますから…しばらくうちにいます?
男:えっ?いや、流石にそれは……僕なら大丈夫ですから!財布あるんでそこら辺で時間潰せますし!
女:でも、当分降り続ける予定みたいで
男:でも………その、お隣さんって……独り暮らしですよね
女:はい
男:やっぱり!だったらダメですよ!こんなに簡単に男を家にあげちゃあ!
女:だって、とても困ってみえるから
男:そりゃそうですが…女性が見ず知らずの男を家にあげちゃダメです!
女:見知らぬ人ってわけじゃないし
男:隣に住んでるだけの男を信用したらダメです!
女:……ふふっ。今の会話だけでも十分信用に足る人物だってことがわかりましたよ
男:買いかぶりすぎですよ
女:それに大丈夫です。うち、ペットカメラつけてますから。もしあなたが変なことをしたらそれを証拠に訴えちゃいますから
男:でも
女:困ってる人ほっとく方が心苦しいです。あったかいコーヒーくらいなら出せますから…さあ、どうぞ
男:では…すみません…お邪魔します……
0:女の部屋。
女:適当に座ってくださいね、今コーヒー淹れますから
男:お構いなく
女:鍵、どこで落としたか見当ついてます?
男:多分職場じゃないかと…上着を脱ぎ着したのでその際に…
女:職場の方、連絡取れます?
男:あー…取れはしますが、今日計画停電で事務所閉めちゃうんで…多分もう誰も事務所にいないんですよね
女:あらまー…はいどうぞ、コーヒー
男:あ、いただきます。……美味しい
女:お口に合いました?
男:ええ、すごく美味しいです。これ…インスタントじゃないですよね?
女:ええ。さっき淹れたばかりなんです。インスタントって味気ないじゃないすか。嗜好品(しこうひん)なんだから楽しまなきゃ
男:コーヒーお好きなんですね?
女:友人にコーヒーミルを貰ったんですけど、挽きたての豆の香りにハマっちゃって
男:わかります。…僕も好きなんですよ、コーヒー
女:よかった
男:……そう言えば、何を飼ってらっしゃるんです?
女:え?
男:ほら…ペットカメラ、仕掛けてるんですよね?見たところワンちゃんも猫ちゃんも見当たりませんが
女:ああ……カメラは仕掛けてるんですけど…写すべき対象はいないんです
男:え?
女:3週間前に病気で。…だからカメラを外すの忘れてて
男:それは…その…
女:大丈夫です、気を使わないでください
男:…何を飼ってらしたんですか
女:雑種の猫です
男:お隣さんが猫を飼ってたなんて知りませんでした。走り回る音も鳴き声もしなかったから
女:大人しいいい子でしたから。…ちょうどこんな寒い日に出会って…鳴き声もか細くて、ほっといたら風邪引いちゃいそうで…思わず連れて帰りました
男:じゃあ、僕みたいに拾ったんですね?
女:ふふ。…はい
男:猫はいいですけど、男はホイホイ拾わない方がいいと思いますよ?…拾われた側が言うのもなんですが
女:でもお隣さんもいい子みたいでしたから
男:僕は猫ですか
女:じゃあ可愛く鳴いてくれますか?
男:…にゃー
女:ふふっ、とても可愛いです
男:おちょくりましたね?
女:あ、そうだ。お隣さんのお名前伺ってもいいですか?…引っ越しの挨拶の時に聞いたんですけど、ずっと思い出せなくて
男:田崎です。僕も聞いてもいいですか?忘れちゃいました
女:加藤です
男:じゃあもう、お隣さんって呼ばなくてもいいですね
女:はい。……ねえ田崎さん
男:なんでしょう
女:お腹減ってません?
男:え?
女:実家からひと玉白菜送られてきて困ってて。…良かったら鍋に付き合ってもらえませんか?
男:え、…いいんですか
女:はい、と言うか…ぜひ。鍋を一人前作るの、むしろ難しいんですよ。3日分作って少しずつ食べようかと思ってましたけど…やっぱりお鍋はみんなで食べたほうが美味しいじゃないですか
男:……じゃあ、お言葉に甘えて
0:鍋をつつきながら
女:やっぱり鍋は誰かと食べたほうが美味しいですね
男:いきなり押しかけたのにすみません
女:何言ってるんですか、引っ張り込んだのは私のほうですよ。…あ、そこのお野菜もう煮えてると思います
男:いただきます。…加藤さんはこのアパート長いんですか
女:4年くらいかなぁ?
男:じゃあ僕より一年先輩ですね
女:はい!…あーでも、自炊とか未だに上達しません。一人の為だけに作る気力、湧かないんですよね~野菜取らなきゃ!って思っても、手の込んだものやりたくないし…結局冬は鍋一択になっちゃって
男:わかります
女:…でも、鍋ばっかり出してたら彼氏と喧嘩しちゃって
男:えっ!加藤さん彼氏さんいたんですか!?僕、今すぐお暇(いとま)しますっ
女:待って待って、過去形ですから。「鍋しか作れないなんて女じゃねぇ」とか言って、1年前勝手に出てったんですよー…後でわかったんですけど、既に別の子と付き合ってたみたいで
男:なっ。なんですかその人。失礼すぎません?加藤さんにも鍋にも
女:鍋にも(笑)…まあ、付き合ったって言うか…あっちが勝手に転がり込んで住みついただけだったので…そういう人だったんですよ
男:…加藤さん、僕以外の人間も拾ったことあるでしょう。ホイホイ拾っちゃダメですよ?
女:えへへ
男:あと、仕方なくなんかないです。……始まりがなんにせよ、人の好意をむげにする人を許さなくていいんです
女:田崎さん…
男:そういう人にはタンスの角で足の小指をぶつける呪いでも掛けておいたらいいんです
女:わ、それいいですね。では、ついつい紙で指を切っちゃう呪いも
男:わーそれは想像しただけでぎゅんってなりますね
女:……田崎さんは?彼女さんとか、いないんですか?
男:いたら真っ先に電話して泊めてもらってます
女:そりゃそっか。…じゃあ田崎さんがフリーでよかったな
男:え?
女:私、ももちゃんが…あ、ももちゃんって言うのは猫のことで
男:はい
女:ももちゃんが死んでからずっと、ふさぎ込んでて…こんな風に笑いながらご飯を食べたの、ほんとに久々なんです。しかも鍋。最低最悪二股男のせいで、今年鍋作るときいっつも思い出しちゃって…だから田崎さんがフリーで…家に引っ張り込まれてくれてよかったなぁって
男:それを言うなら僕だって
女:え?
男:鍵無くして終わったわーどうしよーって思ってたのに、隣に女神が住んでたんです。めっちゃ美味しいコーヒーと鍋をご馳走してくれて、僕が今どれだけ救われていることか
女:大げさですよ
男:あ、雨……………上がりましたね
女:え?…あ、ほんとだ。音しませんね
男:じゃあ僕、そろそろお暇(いとま)します。これなら駅前の満喫まで歩けそうですし
女:え?帰っちゃうんですか?
男:帰っちゃうって…そんな言い方したらダメですよ?何度も言いますけど、加藤さんは女性なんですからもっと危機感を持ってください
女:今日、泊まっていきません?
男:だからですね
女:手を出されてもいいと思ったので、お誘いしてるんですが
男:…マジですか
女:マジです
男:酔いました?
女:飲んでません
男:ですよね
女:はい
男:………でもやっぱり、今日は帰ります
女:私、色気足りません?
男:……あなたは僕の忍耐力に感謝すべきだと思います。今すぐ押し倒しますよ
女:どうぞ?
男:…やっぱり駄目です
女:ええ?なんでですか
男:だって…ももちゃんの寂しさにつけ込むのはフェアじゃないでしょう?
女:え?
男:今抱いたら…手順を間違えたら…あなたの鍋がもう二度と食べられなくなるかもしれないじゃないですか
女:それって
男:あなたが今夜拾った男は……最低最悪二股男と同じ入りは嫌なんです。…加藤さん、年齢は?
女:え?
男:出身は?趣味は?休日は何して過ごしてますか?
女:えっと
男:そういう情報、小出しで聞いていきたいんです。……久々に恋したんで、もう少しふわふわしてたいんです
女:ふわふわって
男:連絡先だけ、聞いてもいいですか?…僕、冬の間ずっと鍋でも大歓迎なので…今度、一緒にもつ鍋行きません?
女:もつ鍋…
男:嫌いですか?
女:……好きです
男:じゃあ、決まりですね。……ちゃんと戸締りして寝てくださいよ?
女:ほんとに…帰っちゃうんですか
男:はい、帰ります
女:据え膳ですよ?
男:はい。…でも、煮込んだ方が美味しいじゃないですか
女:私は鍋ですか!
男:僕を猫扱いした加藤さんに怒る権利はありませーん
女:…満喫、空いてなかったら戻ってきていいんですからね?
男:誘惑やめてくださいね。あと、もう他の人拾わないでくださいね
女:私はいつも…一匹しか拾えません
男:はい。…じゃあおやすみなさい…また連絡します
女:はい…おやすみなさい、待ってます
0:部屋のドアが閉じる。
女:なんか私までふわふわしてきたじゃないですか…ばか…美味しいお鍋、期待してますからね
鍵を落としたら 2人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます