第3話(最終話)
県境を越えて隣町にやってきてある駅に降り立った。駅前のロータリーから商店街を歩いていると、そのあたりが何かの酸っぱい香りが漂ってきて歩いていくたびにその香りもどんどん強くなってきている。
どこかで嗅いだことのある香り。
横断歩道を渡って歩道橋を登り橋の真ん中に来ると住宅街の向こう側から何か黄色いとがっているようにも見える物体が見えてきたので、それがある方向に向かって歩いていくと東京ドームみたいに広い公園に辿り着いた瞬間に僕はまたしても口が大きく開いてしまった。
そこには十メートル強はあるだろう巨大なレモンが地面に突き刺さっていたのである。
「何が、どうなっているの?」
その周辺にいる人たちが集まってきてはあたふためいてスマートフォンをかざしている。僕も写真を撮ろうとした時に後ろから肩を立たれたので振り返ると、頭がレモンの形をした同じ年くらいの女子が僕に声をかけてきた。
「気がついたら地球に落ちてしまったの。どうしよう、家族のみんなとはぐれてしまったみたい」
「お家の電話番号ってわかる?」
「お家には電話はないの。その代わりにこの頭から電波を飛ばすことができる。だけどいくら発信しても返事が来ないの」
「ねえ、君はなに人?」
「私は……ヒプノシスメリアという惑星から来たの」
「ひ、ひ、ヒプノ……?」
「そこには柑橘系の木が聖樹として
「もしかして、この間のオレンジが地球に落ちてきたのもその惑星から来たものなの?」
「ええ。本来は他の惑星に向かって飛ばすことなどしないのだけど、ある学者さんが聖樹の果実を飛ばすことによって私達がここに存在しているんだと知らせるために地球に送り続けていたんだけど、距離が千臆光年離れているからなかなか届かずにいて途中の宇宙空間で他の星と衝突して実験が失敗を繰り返していたの」
「あのさ……その君たちの存在を知らせる目的って本当は何なの?何かの陰謀?」
「そんな恐ろしい事じゃない。地球に住んでいる人たちが私達の事を知ってもらえれば、もし地球が無くなった時に私達の星に移り住むことができることを伝えたいの」
「地球ってなくなる説でもあるの?」
「それはまだ遠い未来の話。あなたも私もそのころまで生きているかはわからない。でも、今のうちにこうして降り立つことができたのは奇跡なの。まさか、あなたに会えるなんて思いもしなかったし……」
「ますます意味が分からないよ。僕の事知っていたのってどういうこと?いつから?」
「私の星年数で言うと百臆光年前かしら」
「……もう果てしないほどに凄い遠い未来だね。つまり、あなたは僕の子孫とか?」
「そうよ、その通り」
「僕に会いに来たとか?」
「それもあるわ」
その人は僕ら地球にいる人間と同じ人種のようで、その人種の遺伝子が交配を繰り返ししていくうちに柑橘系物質が体内に主要な栄養素となったがために頭の形も変化していったらしい。
「ところで君の星にはどうやって帰るの?これだけ地面に陥没しているし、レモンは動くことはできるの?」
「今家族が対応している。レモンが動けば帰れると思う」
「ああ、ここにいたか。消防士の人に話をしたら星に帰ってもいいと言ってくれたよ。エンジン装置も異常がなかった。さぁ、私たちも帰ろう」
「はい。……それじゃあどうか元気でいてくださいね」
「うん。君も気をつけて帰ってね」
消防士の人たちが周囲に集まっている人にレモンが動くので離れるようにしてくれと指示をして、一駅隣の駅に降りた後ホームの窓からレモンが飛んで上空へと上がり雲を抜けた途端に勢力を出すかのように一瞬で消え去っていった。
青空にはひこうき雲ならぬレモン雲が一直線に浮かぶ。すると、スマートフォンの着信が鳴ったので出てみるとお母さんからだった。学校からいなくなったのに先生が連絡してきたらしく、急いで家に帰るように言ってきたので、電車に乗り一時間ほどかけて家路を目指していった。家に帰り玄関を開けたらお母さんが僕を抱きしめてきて心配していたと話していた。
その後お父さんも帰ってきたのでみんなで夜ご飯を食べ、片付けが終わると先程あのレモンを撮った写真を見せようとしたが、そこには公園の景色しか写っていなかった。おかしいなと思い、お母さんにレモンが落下した事がニュースになっていなかったかと聞いてみると、そのような話は何も聞いていないと返答してきた。
僕が見た巨大なレモンとあの女の子は一体何者だったのだろう。
けれど、あの子が僕と出会えたことが嬉しそうにしていたのでその後は誰にも話さずに僕の思い出として残すようにしておいた。
その頃レモンの巨大飛行船に乗るあの女の子は宇宙空間を飛行するなか、父親に僕という子孫に会えたことを話し、ヒプノシスメリアの星に着いたら皆にそのことを伝えて僕の生存確認ができたことをお祝いしようと話していた。
了
Feeling Groovy 桑鶴七緒 @hyesu
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