【3-16】 筆頭補佐官の献策 上

【第3章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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「降伏を受け入れてはならないだと」


「御意」


 3月も中旬だというのに、この日も気温はマイナス10度近くまで下がっている。天幕内には簡易ストーブが焚かれるも、主従は帝国式コートの襟を立てたままであった。


 理解できない。否、理解したくないという表情を浮かべ、二の句を継ごうとした主人を先に制したのは、またしても筆頭補佐官である。


「ウルズ城塞が旗幟きしを不鮮明にすることで、この地域の中小領主たちの雰囲気を常に不穏なものにしてきたのです」


【3-9】 水道橋

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 今回、降伏を申し出てきたとはいえ、それは一時的なものに過ぎない。


 我らが引き揚げたら、再び彼らは掲げる旗をブレギア悍馬かんばから帝国鷲羽わしうに持ち替えるだろう。その昔、ラヴァーダ宰相が水源を押さえ、降した後のように。


 これを機に徹底的に叩かねば、同じことを繰り返してしまう。


 だからこそ、これまでに無いほど残虐に、ウルズ城塞をすり潰すべきだと筆頭補佐官は語気を強める。



「我が軍の力を見せつけるのならば、水道橋を破却したことだけでは事足らんのか」


 ビフレスト水道橋を瓦礫がれきの山にしただけでも、お釣りが来るのではないか――レオンの口調は懇願の色合いすら帯びていた。


 トゥレムの口から大儀そうに白い息が漏れる。

「我が軍は、長期間遠征を続けております」


 しかもその間、大小多くの戦闘を重ねてきた。結果、従軍した領主たちに多数の将兵の犠牲を強い、多額の戦費を負担させている。


 特に、このウルズでも、帝国老将・ズフタフ=アトロン指南の防御陣に、想定外の人的被害・物的損害を強いられた。


 それらを賄うため、ひいては士気高揚のためにも略奪は有効だろう。


「略奪……」


 その2文字に怯むレオンに、トゥレムの軍靴が一歩踏み込む。


「もう3月も半ばです」

 いまから帰国の途についたとしても、兵士たちは、郷土での畜産業や農業の対応に大きく出遅れることになる。国許へ手土産の1つも必要でしょう。


 それには、調が都合よい。


 ブレギア軍の武威を示すことと、戦費の補充、略奪は一石二鳥なのだ。



 降伏を認めず、生殺しにせよ――ドーク=トゥレムの献策は続く。

「もう数回、城塞から帝国軍に援軍を求めさせましょう」


 城塞側から和議の申し出があった――落城が確実になった――いま、主導権は我等ブレギア軍が握っている。


 ブレギア我々が降伏に応じなければ、ウルズ城塞としては帝国にすがるほかあるまい。


 ウルズをはじめ、昨年末よりブレギア軍の攻撃にさらされた多くの城塞は、旧都・ノーアトゥーンへ次々と救援を乞うたはずだ。


 だが、帝国軍は応じなかった――応じられなかった。ヴァーガル河で手痛い敗北を喫し、援軍を再編する余裕がないのだろう。


 そうした事情を明るみにさせる――新聞記者どもに「帝国がウルズ城塞を見捨てた」と報道させるのだ。


「『帝国頼みにならず』という事実を、ウルズ周辺の諸都市に知らしめることこそ肝要なのです」

 トゥレムの三白眼はいつにもまして鋭かった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


トゥレムの献策は、少々度が過ぎていると思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「筆頭補佐官の献策 下」お楽しみに。


「女、子どももたくさんいるのだぞ」

反対に、レオン=カーヴァルの水色の瞳は、弱々しい光をたたえていた。


「ここで示しをつけねば、この先我が軍において、もっと多くの者が命を落とします」

「だめた、だめだぞ、トゥレムッ」


金色の髪を振って喰らいつこうとする若き主人など、筆頭補佐官は意に介さない。

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