第20話『面会』
「すいません、こちらで入院している伊藤誠さんに面会したいのですが」
「こちらの面会カードにご記入下さい」
「これで良いですかね?」
「警察の方…ですか?」
「はい、伊藤さんとは少し縁がありまして」
「分かりました」
病室に着くと確かに41歳相応の中年男性が体中にチューブが繋がって横たわっている。
「随分ここに来るのが早かったね。ちょっとヒントを出しすぎちゃったかな?」
またコイツお得意のハッキングだ。眼の前の中年男性が目を開けてこちらを見つめながら喋りかけてくる。
「そうだな。だが、逆にお前のヒントが無きゃ絶対にここには辿り着けなかった。本当は早く俺にここまで来てほしかったんだろ?」
「まだ短い付き合いなのに随分僕のこと分かるようになってきたじゃないか。そうだよ、流石に26年もこうして過ごしていると話し相手の1人や2人も欲しくなるってもんさ」
「お前の起こした事件は全てお前をそんな状態にした
「まぁ元々の動機はそうだね」
「元々の動機?それ以外にも理由があるのか?」
「うん。突然だけど、山岸さんは僕が過去も未来も見える能力があるって言ったら信じる?」
「これだけ見事に相手をハッキング出来るお前だ、あり得ないと否定する気にはなれないな」
「ありがとう。元々人間の魂というのは肉体と結合しているから肉体を離れて自由に動いたりは出来ないんだよ。稀に臨死体験などで幽体離脱といって肉体から魂が抜け出て手術台に横たわる自分を眺めたとか、そういう経験をする人はいるけどね。で、どうやら人間の植物状態というのはこの幽体離脱が安定化した状態みたいでね、僕の魂はいつでも自分の体を離れて自由に動けるという訳なのさ。それで、色々と動き回る内に少しずつ過去や未来といったズレた時間軸にも移動できるようになったんだよね」
「そうか、お前にとって相手の人間をハッキングするという行為はその人間に憑依するようなものなのか」
「憑依、そうだね。その表現が一番的確かもしれない。だから、
「そうだ、それならハッキング遺伝子はどうなんだ?」
「そう、正にその話をしたかったんだよ。山岸さんはそもそも人間になんでハッキング遺伝子なんてものが存在すると思う?」
「人間をハッキングしたい存在がいたということか?もしかして、人間は彼らに創造されたのか?」
「そう、僕らを創造した神と呼ばれる存在が僕らをコントロールしやすいように、セキュリティのバックドアとしてハッキング遺伝子を挿入したのさ」
「だが、その神はどこに行ったんだ?そんな高度な技術力を持った存在がいたのなら今でも彼らが人間を支配していないと辻褄が合わないぞ」
「彼らは消えたのさ。世界の矛盾を解消するためにね」
「矛盾?」
「実は彼らは僕らが進化した存在、要は未来人だったのさ」
「未来人が過去にやってきて今の人類を創造した…鶏が先か卵が先かみたいな話になってきたぞ」
「そうだよ、すごく複雑な話しさ。これから先の未来、地球は核を用いた第三次世界大戦で人類が住める惑星ではなくなり、火星へと移住することになる。しかし、火星でも争いは絶えず、火星も人類が住めない星へと変えてしまった。ちょうどその頃、時間旅行を可能にするタイムマシンが開発され、人類は過去の美しい地球に戻って歴史をやり直すことにした。そして、過去の地球で自分たちにとって都合の良い労働力として今の人類を創造したのさ」
「未来人は自分たちの創造した人類が未来の自分達に繋がるという事実に気づいていなかったのか?」
「たぶん途中で気付いたんだろうね。だが、時既に遅し。未来人が誕生するルートを今の人類が選択しなかったことで未来人という存在は消えたのさ」
「うーん、分かったような分からないような…」
「今話した未来人の顛末が、僕が今回事件を起こしたもう一つの目的さ」
「この話がそこにどう繋がるんだ?」
「今の人類は遅かれ早かれ、自分達の遺伝子の中にハッキング遺伝子というものが存在することに気付く。ただ、それを悪用しようとした者達はその存在を公表せず影から人類を操ることにする。そうして第三次世界大戦が誘発され、その未来は火星に繋がり、未来人が過去の地球に来て今の人類を創造する。こうやってハッキング遺伝子をきっかけとして未来人から今の人類へと繋がる輪廻のループが出来上がってしまったのさ。僕は人類が何度もこのループを繰り返して悲惨な結末を迎えることを知って、このループを何とかして断ち切りたかった。だから、敢えて派手に事件を起こしてハッキング遺伝子を発見させ、その対策としてP-BMIを介して脳に電気信号を送ることでハッキング遺伝子を不活性化させることにしたのさ」
「全てお前の手のひらの上で俺らは転がされていたという訳か」
「良いじゃないか、お陰で僕らは地球と共に幸せな未来を過ごせるようになるんだよ」
「そうだな。そういう意味では全てお前の計画のお陰だ」
「まだ僕の計画は終わってないよ」
「これで終わりじゃないのか?」
「サミュエル・ウィリアムズ名誉教授は最期に最高の発見をしてくれた。輪廻転生の存在を実証してくれた。そして、こうして山岸さんが現れた。僕は山岸さんの息子として次の人生を生きることにする」
「はぁ?そんなこと勝手に決められても心の準備が…」
「一年後、男の子が生まれたら絶対、名前は誠にしてね」
「おい、勝手に話を進めるんじゃない!」
「頼んだよ…」
横たわる伊藤誠のベッド脇にあるベッドサイドモニタの心電図が急に弱まっていき、そしてしばらくして心電図は横一直線を描いた。
小説『ワンネス oneness』 渡辺羊夢 @watanabeyomu
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