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「ていうかさ。結局話って何だったの? よくわかんないけど、もう終わったわけ?」


次に口を開いたのは森山。


棘のある言い方。

それがなんだか虚勢のように聞こえてしまうから、戸惑う。


「……私、ここで平和に過ごしたいの」


「ん?」


触れられたくないくせに、結局自分からその話題を口にするしかない。


柊は諦めたように息を吐いて、話し始めた。


「森山、知ってるんでしょ。私の噂。口止めに来たのよ」


「……ああね」


ようやく納得した森山は、なるほど、と頷いた。


「べつに言う気ないけど。完全に信じてる訳でもないし」


「……ちょっとは信じてるんだ」


「そうじゃなかったら、君にこんな嫌な態度取らないでしょ。ほら、火のない所に煙は立たぬって言うしね」


「……最低」


嫌な態度、か。やっぱりわざとだった訳だ。


「ごめんね。傷つけてるの、わかってる。だけど、俺の中ではさ。どんな可能性も見逃せないんだ。千愛の死をただの自殺で終わらせるわけにもいかない」


「……どういうこと」


「あの子が死んだ原因を、探してる」


目の前の男の、伏せた顔を見つめた。


なにそれ。心の中で呟く。


3年前のこと、なんて言ったくせに。


結局このひとは全く処理できていないのだ。


「……なるほど。で、私は? 容疑者?」


「噂を鵜呑みにすれば、そうなるね」


「ほんと最低。で、真相を突き止めて、そのあと、犯人をどうしたいの?」


「……」


ぶつけた質問の答えは、なかなか返ってこなかった。


思わず訪れた沈黙に、柊はじっと耐える。


「俺は、そいつを、


殺す気でいるよ」


……殺す。


予想していたとは言え、なんて鋭利で残酷な言葉だろうか。


柊は、手に汗を握った。怖いだなんて、思いたくなかった。


「物騒なこと言うのね、人気者の生徒会長が」


かろうじて落とした声に、わずかな同情心が混じる。


「人気者にも秘密のひとつやふたつ有るよ。君にも都合がいいんじゃない? 秘密の共有をしようよ」


そう言って、森山はまた優しく微笑んだ。





『間違っているものは間違っていると』。


当たり前のように「自殺」にされた千愛の死。


それは、間違っているのだ。


千愛のかたきを討つのではない。


これは、千愛の夢の続き。


彼女の代わりに、自分が。


森山は柊から窓の外に目を移した。


……ずいぶん雨が強くなった。当分は、止みそうにない。










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Replica-復讐計画は美少女転校生によって狂い始める- 麻田ゆま @yunyumaa

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