1-9

「確かにね。同じ中学校出身って言っても、それだけだったよね。学年も違うし。でもお互い、相手のことをよく知ってた。でしょ?」


「…………」


「俺は柊のこと、千愛からよく聞いてた」


「…………」


千愛。


柊の表情が切なく歪んだ。


ふわりと柔らかく笑う顔が、鮮明に思い出される。


思い出すたびに胸が痛む。


ふいに感覚が無くなって、自分が今どこに立っているのか、わからなくなる。


「君にとって、千愛は何だった?」


その言葉を聞いた瞬間、柊はピクリと反応した。


「親友だった。それ以外にない」


彼女の力のこもった低い声が、響いた。


「そう」と頷く森山の声色から、温度が失われていることに気付く。


ついに本来の姿を現したか。


「なんで、そんな風になったの。あんなことがあったのに、何を思って明るい人になりきるの。普通逆でしょ」


「………そんな、いつまでも不幸ヅラしてる方が変でしょ。3年前だよ」


「不幸ヅラもなにも、森山 有ってもともと無表情で暗い人間だったじゃない」


「それ、本人に言っちゃ駄目なやつだよ」


「茶化さないで。大体、3年前だからって、そうやって割り切れるものじゃないでしょ。それぐらいのものだったの? そうよ、あんたにとって千愛は何だったの」


「……幼なじみ。それ以外にないよ」


 その答えに、柊は嘆息した。


「そんなんだからいけないのよ」


「なにが」


森山は意味がわからないという様に聞き返す。


しかし彼女は、目を伏せながら首を振った。


「終わったことよ。今更私が言うべきじゃない。千愛は……、死んだんだから」


「…………」


柊は、窓の外に視線を移して呟いた。


そんな彼女を、森山の、感情を宿さない眼が見つめていた。


「千愛は、もう居ないの」


青空を隠す黒い雲はしだいに広がって、ぽつりぽつりと、雨が降り始める。


「……君、何か知ってるんじゃないの」


「何かってなに」


森山の質問に、わざと冷たく返す。


「あいつが……、誰に殺されたのか、とか」


「殺された?」


予想外の言葉に、柊は眉をひそめた。


「変な言い方しないで。千愛は自分で死んだのよ。屋上から飛び降りて……」


「じゃあ、なんで千愛が自殺したのか。君知ってるんじゃないの」


「……どういう意味?」


この男も、やっぱりそれが言いたいのか。

今度は敵意を持って睨み返す。


「単純に、そのままの意味だよ」


「……じゃあ何も知らない」


「……ふーん」


不満げな相槌。


言いたいことがあるなら言えばいい。気に入らない。


それからまた。沈黙。





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