第10話 タイムリミット

俺はよく仕事から帰宅すると便意を感じる。

マンションの2階の一番端っこの部屋なんだが、階段を上がってから端っこにつくまでの間にそれは起きる。


また今日もそうなるだろう。

いや、ここんところ毎日だから間違いない。


だから今日は歩くペースを上げて、いや、むしろ走って部屋まで行こう。

鍵も事前にポケットに用意しておく。


マンションを目の前にして、まるで今から敵のアジトにでも乗り込みに行く気分だった。


ん?

なんと、もう便意が押し寄せているではないか。


予想外の事態に俺は全速力で階段を駆け上る。

その物理的振動がさらに発射を加速させてゆく。


ここまで本気で走ったのも久しぶりだった。


よし、いいペースで部屋についた。

まだ火口付近に位置はキープしている。


後は鍵を差し込むだけだった。


ドアを開ける。家に帰ってきた安堵感となんとも言えない幸福感が俺を包み込む。


発射は寸前まで来ていたが、俺は膝と膝をくっつけ肛門に力を加えることでそれを防いでいる状態だ。

トイレのドアを最小限の力で開け、戦いも終わりを告げようとしていた。


勝ったと思った。


だが俺は大きなミスをおかしていた。

ズボンが脱げない。


ベルトがギュウギュウに絞まっていたのだ。

思わぬ誤算に指は震えて、一気に顔が熱くなる。


頭の中では何故か知らないが最近のニュースの出来事とハゲた部長の映像が渦巻く。


ベルトを緩める力を大きくすれば、発射をキープする力が崩れてしまう。

かといってキープもいつまで持つか分からない。


俺は賭けた。下半身に使っていたパワーを全て指と手に変換したのだ。

お尻が抱えていた荷物がストンと落ちる感覚と共に俺を拘束する物はとれた。


俺の対応とテクニックにはぬかりがなかった。

ただ一つ甘さがあるとすれば、それはチャックを開け忘れていた事だ。


こっちの鍵も開けておくべきだった。


見事にパンツに発射されて、ただおれは笑うしかない




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奇々怪々 短編集 星野レンタロウ @renorange

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