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「修二、誰かと話してたのか?」
乗船してから雲野と話し終わるまで十分はあったはずだ。
「まあ、ちょっとな」
「誰と?」
「秘密だ」
彼は優馬から視線を背ける。優馬は修二が視線を背けた先にいる人物を見て合点がいった。名探偵藤清治だ。
「雲野さん、彼を知ってますか?」
「いいや、知らんな。誰のことを言っとる」
優馬は綺麗な顔立ちをして、豪華なスーツを身にまとった若者を指差す。
「知らんな。だれや」
修二や優馬は驚く。今や日本中で引っ張りだこの探偵を雲野は知らないのだろうか。
「藤清治ですよ。名探偵の」
優馬が説明しても雲野にはしっくりこないようで首をかしげるばかりだった。
フェリーには優馬たちを合わせて九人が乗船していた。どの乗客にも共通していることは全員不安そうな表情をしていることだ。
それから一時間程度沈黙が流れた。すると、独りでに動いていた船体が動きを止めた。
「着いたか」
誰からともなくそんなつぶやきが漏れる。
ぎしぎしと音を立てて乗船口が開く。先には豊かな自然が広がっていた。ただ、そこには似つかわしくない真っ白な大きな建物があった。円形で高さは一階建ての建物と大差はない。そのためかとても広く、存在を無視することは不可能に近い。
優馬はフェリーを降りて舗装された道を歩く。看板には赤い字で『こちらへどうぞ』と書かれていた。先にはもちろんあの白い建物がある。
道を歩いているとわかるように、この島の自然は明らかに人が手入れしているようだ。景色に目を奪われているとそのうち建物に着いたようだった。
「ついに来てもうたな。もう後戻りはできん」
優馬は島の港を見る。だが、そこにはあの大きなフェリーの影もなかった。
「行くしかない」
玄関の前で逡巡している優馬を一瞥して修二は玄関を開ける。
建物の内部は外見と同じく真っ白だった。そのためか厚みのある鉄扉が異様に目立った。それは入口正面の奥にある壁に設えてある。
「入るで」
今度は雲野が扉を開ける。
後ろにいた他の六人も追随する。六人目の女性が入った時扉は重い音を立てて閉る。扉の先には部屋があるわけでもなく優馬は閉じ込められたのかと錯覚した。
優馬の不安が広がりつつあるとき、部屋が大きく揺れる。何人かはバランスを崩したようだ。
この部屋はエレベータだったのだ。エレベーターはゆっくりと下へ降りていく。
ガタンという音とともに鉄扉がゆっくりと開きだした。横開きの扉のため少しずつ視界が開けていく。
エレベーターを降りる。そこは部屋の一室らしく、茶色を基調とした部屋だった。引き出しのある大きなテーブルがあり、洒落たグラスや、ワインボトルがおいてあった。中央にはおつまみらしき物もある。
優馬は20歳を過ぎたので酒を飲めるが他の人はどうだろうか。
そんなことを考えていると、鉄扉がバタンと音をたてて閉まった。入ったときはあんなにゆっくりと閉まったのに……
「まあまあ、優馬くん一旦落ち着きや」
雲野の言葉でテーブルを見るとブランドものの椅子に優馬以外の全員が座っていた。
偽善 島津宏村 @ShimazuHiromura
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