次男

長万部 三郎太

わたしには息子がいる。

これから下の子を迎えにいくところだ。



それにしてもどこから話せばいいものか……。

きっかけは夕食後のアイスだった。


何気なく買い置きしていたカップアイスをひとつ、5歳の息子に与えた。

すると小さなカップだったのが気に入らなかったらしく、もうひとつ、もうひとつとせがむのだ。


妻は「明日また食べよう」とあやすが、激高した息子には効果がなく、次第に大声を上げるようになる。これは尾を引きかねないと感じたわたしが割って入ろうとしたそのとき、妻は平手で息子の頬を叩いた。


こうなってはなだめる係が必要だ。

「痛かったね」「お母さんに怒られたね」


この子の気持ちに沿うスタンスで臨むが、まるで手ごたえがない。

息子はわたしの手を噛むと、ものすごい目つきで睨み、唸り声を上げた。


妻はというと、その表情は青ざめて恐怖し、その場に固まっている様子。

わたしはやむなく暴れる息子を部屋に戻して外側から鍵をかけたのだ。



それが先週末の出来事。

わたしは手の傷が癒える間もなく、こうして車のハンドルを握っている。

冒頭で言ったように、妻と一緒に息子を迎えに行っているのだ。


店の前に着くと妻がこう言った。


「次は気性がおとなしい男の子にしましょう。2歳くらいのがいいかしら?」


上の子はちょうど今頃お店の人が回収している手はずだ。





(ディストピアシリーズ『次男』 おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次男 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ