第23話 凶悪なるスライム

神代聖流に切り落とされたダグロス右手は、蒼銀烈華の力で消滅していたはずであった。

だが、僅かに1センチほどの大きさのものが消滅せずに生き残り、地中に逃れ生き残っていた。

それは黒く柔らかいゼリーのような存在であり異世界のスライムのようであった。

1センチほどのスライムは地中の虫やミミズを飲み込み吸収して徐々に大きくなっていく。

そのスライムは地上に現れるとゆっくりと移動を始める。

襲いかかってきたネズミをそのまま取り込み、溶かし、吸収していく。

そのスライムは動物を引き寄せているかのように周辺の虫やネズミを引き寄せ取り込んでいく。

やがて、30センチほどの大きさまでになると周辺の小動物を捕食し始めた。

野良犬、野良猫、野生の鳥。

触れるものは次々に捕食されていく。

やがて、1メートルほどの大きさに成長すると動きを止めた。

しばらくすると淡い赤い光を発しながら二つに分裂した。

分裂したスライムは、それぞれ別々に動き始め、再び捕食を始める。

貪欲なまでに周辺にいる動物や虫をどんどん捕食して、再び分裂。

捕食。分裂。捕食。分裂を繰り返し、急速に数を増やしていく。

それはやがて周辺の川、池、下水道、路地裏へと生息域を広げていく。

スライムの住む場所からは、命の輝きが消えていく。

川や池に進出したスライムは、周辺にいる生物をどんどん捕食して、自らの数を増やしながら生物の住めない死の川へと変えていく。

そこからは、徐々に魚が消え、淡水の貝が消え、淡水に住む海老も消えて、凶暴な外来生物達も消えていく。

凶暴な噛みつき亀が噛み付いても、スライムは死ぬこともなく痛みを感じることもなく、逆に噛みつき亀が飲み込まれていく。

噛みつき亀も必死に暴れるが、スライムの中にある強力な酸の働きで、飲み込まれたものはどんどん溶かされていく。

しばらくすると跡形もなく溶かされしまった。

魅入られたかのように凶暴な生物ほどスライムに襲いかかり、全て返り討ちにされ餌となっていた。

飼育に困り捨てられた鋭くナイフのような歯を持つ凶暴な魚が集団で襲い掛かるが、噛み付いた瞬間そのまま内部に引き込まれあっという間に溶かされる。

河川や池で人に知られぬまま急速に捕食・分裂を繰り返しどんどん増加していく。

繁華街の路地裏にて増殖するスライムは、ゴキブリ、ネズミを捕食。捕食し尽くすと猫や犬を取り込み、急拡大していく。

増えすぎたスライムはやがて人を狙い始める。

「なんだこれ・・・ゼリーの塊か?」

路地裏を通りかかった赤く髪を染めた若い男が通りかかった。

夜明けの裏通りを仕事帰りに近道としてよく使っている。

ビルの狭い間に不思議なものが目に入った。

ゼリーのような不思議な塊であった。

恐る恐る靴のつま先で突くと、スライムは急に動き出しその男の足首を包み込む。

「な・・なんだ、これは」

男は慌てて手で足首に取り付いたスライムを手で取り払おうとした。

手がスライムに触れた瞬間、手首もスライムに包まれてしまう。

そして溶かされ始める。

パニックになり騒ぎ始める。

「・・・だ・・・誰か・・助けてくれ・・・」

その声を聞いた人たちが集まってくる。

人々が集まってきたその時、ビルの屋上から何かが降ってきた。

黒いスライムである。

黒いスライムがいくつもいくつも、降ってきて人々の頭上に降りかかる。

周辺は既に集団パニック状態となっていた。

人々の助けを求める声。

溶かされる苦痛に歪む声。

やがて警察官もやってくるがなす術もなく、警察官に迫り来るスライムに恐怖から思わず発泡するが、スライムにはなんの変化もなかった。

よく見ると警察官が撃った拳銃の弾がスライムの中に見えているがそれが徐々に小さくなっているのが分かる。

「け・・拳銃の弾が・・溶けてるぞ」

助けに来た人々も徐々に後退していく。

後退していく人々を追いかけるように、黒いスライムはゆっくりと徐々に人々を追いかけ始めた。

人々を飲み込み黒いスライムは、人々の恐怖を嘲笑うかのように急激に増殖を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

禁術使 大寿見真鳳 @o-masa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ