第8話 傍観者ミルミル
「やったー!」
「やったー!」
「お金だー!」
「大金だー!」
そう騒ぐのはデライトの家に空き巣に入って貯金の七十万を盗ったワルガキ共だった。
「何しよっか」
「遊ぼう!」
「美味しいもの食べる!」
「あたし買いたいものある」
「楽しそうね」
四人のワルガキ共はビックリして振り返る。そこにはいつの間にか後ろに立って『楽しそうね』と呟いたミルミルがいた。ミルミルは街の情報を集め、大金が手に入って騒ぎ立てるガキ共の情報を掴んで接触してきたのだ。
「な、なんだよお前!」
「なんだよお前!」
「そのお金はヘンちゃんから盗んできたものなのかしら?」
「う、うるさい! これはあたし達の!」
「そうだそうだ! 盗んだお金は盗んだやつのもの! それが〇✕県のルール!」
「あなたたち! よくもまあ、ヘンちゃんを泣かせたわね!?」
ミルミルの全身の機械が駆動し、キュイィーンと音がした。
──────
結果で言えば四対一であるにも関わらずミルミルは勝った。ボコボコの圧勝だった。
ワルガキ四人は正座させられている。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
「許してください……」
「ぼくたち、お金なくて……」
それを聞いてミルミルは何を企んだのか、少しニヤリとした。
「だったら、うちの見習いになる?」
──────
アルビナスが見つかり、光の球の管理がセルカフの研究チームに引き継がれてから一年が経った。アルビナスはセルカフに管理の仕方や重要な情報を伝えると、自分から首元のプラグを抜くように指示を出した。AIに融合されていた意識が栄養の無い身体に還ることになり、それはすなわちアルビナスの死を意味していた。
セルカフは躊躇った。だがしかしアルビナスはこれが最善だと言うので、セルカフはやるしかなかったようだ。
あの出来事があって以降、デライトはジョスリンやリヴィアと共に外の世界で暮らしている。
ある日の朝、店の中でミルミルは見習い一年目のワルガキ共の業務を見守っていると、そこに二名が来店した。
二人に気づいたミルミルはパァッと明るくなる。
「あら、ヘンちゃん! リヴィアちゃん!」
「久しぶり、ミルミル。また親子丼食べたくなっちゃって」
デライトの左腕は彼の望み通り母親の左腕の機械に置き換わっている。両腕ともお揃いのカノンの形見だ。
「あらまぁ、身なりもビシッとしちゃって! 無事で何よりだわ、ヘンちゃん。あぁ、デライトちゃんだったわね」
「好きに呼んでいいよ」
二人が店の中に足を踏み入れると見習い四人が声を出した。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませー!」
「なんだ? 新しいの雇ったのか」とリヴィア。
「そうなの。見習いとしてね」
「そういや、ここの業務めっちゃキツかったっけな。私にも親子丼頼む」
「おっけ、二人とも親子丼ね」
──────
二人のいつもの席の前に親子丼のどんぶりが配膳された。
「はいどうぞ」
「いただきます!」
デライトはさっそく箸を沈める。続くようにリヴィアも食べ始めた。
「ところで、どこまで行ったの? キスくらいはした?」
「ごふっ!」
ゲホッゲホッとリヴィアがむせる。顔を赤くしてミルミルに言った。
「なんてこと聞くんだよおまえ!」
「キスならしたよ」と平然と答えるデライト。
「あらあら……」とニヤつくミルミル。
「オレ知らなかったんだけどさ、外では仲がいい人とキスするのって常識なんだって! リヴィアがそう言ってたんだよ」
「おっと。リヴィアちゃん、そういうやり口?」
「だからさ、ミルミルもオレとキスしようよ! 仲いいし───」
その時、デライトの脇腹にリヴィアの肘が勢いよく穿った!
「いって! なになに!? なんで!?」
「このばか……」と小声で呟くリヴィア。
「デラちゃん? いい? キスは仲がいい人なら誰とでもやるものじゃないの」
「そうなの?」
「そう。一番仲がいい人とだけやるものなの。一人だけなのよ。デラちゃんの一番仲がいい人って誰?」
「うーん……。やっぱりリヴィアかな。リヴィアってオレのことすごい大事にしてくれるし、一緒にいて楽しいから大好きだよ。これからもずっと一緒がいいな〜って思ってる。でもミルミルも仲いいって思ってるよ」
「うふふ。嬉しいわ。ありがとうね」と微笑むミルミル。
「……このばか」と呟いたリヴィアの顔は湯気が出そうなほど赤かった。
「さあさ、食べなさい。冷める前にね」
ミルミルの店には相も変わらずテレビが置かれ、いつものようにニュースを届けていた。
『〇✕大震災の原因が時間の超越に関する研究だったことが明らかになった影響で、その危険性から国内外で時間の研究に対する規制の動きが高まっています。世界中で時間の研究を禁止する法案が採択され、研究チームは続々と解散されています。専門家によりますと───』
【完】
そこにいた幽閉者 あばら🦴 @boroborou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます