第3話 従者は誰にする?
青い短パンに白いティーシャツの涼はこの異世界では異質だろう。この異世界の名はスキゾニーというらしい。なぜスキゾニーというのかはわからない。
涼は衛兵の詰所で椅子に座って兎肉のローストを食べていた。おやつにといって衛兵がくれたのだ。
衛兵の名はバーンズというらしい。バーンズはこの村でたった一人の衛兵らしい。この村の名前はイズルドというらしい。イズルドの村は数軒の建物しかなく、集落といったほうがいいぐらいの村だった。
「この村、全然人おらんやん」
涼はもぐもぐしながら言った。
「ハハハ、そうだな。全然いないな。なぜだかわかるか?」
涼は考えた。昔、いっぱい人が住んでいたが、戦争でたくさん人が死んでいなくなったとか?
「違う。それだったらもっと家が残っているはずじゃないか。この村はたった5軒しか家がない」
「じゃあなんで?」
バーンズは懐かしむように遠くを眺めながら言った。過去を思い出しているのだろうか。
「この村は人間の子を迎えいれるためにある村なんだ」
「ええっ、うそや!」
「本当だ」
「この村には今までたくさんの人間の子が来た。みんないなくなったがいい子たちばかりだった。この村に来る子に悪い子はいないよ。だから君はいい子なんだろうな」
「いい子かどうかはわかれへんけど、悪い子じゃないと思う」
涼は兎肉のローストを食べ終えた。うさぎの肉だと聞いて、びびって食べたが、意外とおいしかった。
「そうだ。従者をひとり、君に選んでもらわねばならない」
「従者って、一緒に旅をする人?」
「そうだ。戦士タイプと弓タイプと盗賊タイプがいるんだがどいつがいいか?」
バーンズがそれぞれのタイプを簡単に説明してくれた。
それによると、戦士タイプは身体も大きく、でっかい剣なんかをもっていて、装備も重装らしい。動くときなんかカチャカチャ鳴るらしい。性格は真面目な人らしい。
次に、弓タイプだが、弓タイプは名前の通り弓を使うらしい。当たり前だが。装備は軽装で、性格はちょっと不真面目らしい。いったいどんな人だろうか。
最後に、盗賊タイプだが、これがめちゃくちゃだった。戦闘では背後から近づき、ナイフでぐさり。たまに弓で狙撃するらしい。また毒を使った暗殺もするらしい。窃盗、スリは当たり前。性格はめちゃくちゃ悪く、社会道徳に反するらしい。
「実際にこの三人の従者とは会えないの?」
涼はごく真っ当なことをバーンズに問いかけた。
「会えるよ」
「どこで会える?」
「隣の家でシェアハウスしてる」
「それ先に言ってよ!」
涼は突っ込んだ。
いったいどんな風にシェアハウスしているのだろうか?
涼とバーンズは三人の従者がいる、隣の家に行った。
隣の家は鍛冶場や溶鉱炉、なめし皮、などがあった。本格的に異世界にやってきたという感じだ。
戦士タイプの従者と思われる身体がごつい人が鍛冶場で剣を造っていた。カンカンと剣を打つ音が聴こえる。
涼とバーンズは彼に近づいた。彼が顔を上げこちらを見た。かなり汗をかいているようだった。
「やあ、バーンズ。人間の子が来たのか?」
「そうだ。リョウという名の子だ。やさしくて利発な子だ」
「やあ、こんにちは。オレはこの村に住んでいる戦士のゴリアテスだ」
「こんにちは、はじめまして…」
涼は急に緊張してきた。大人の男性と話すことって、親と先生ぐらいしかなかったからだ。だから緊張するのだ。
「オレは戦士タイプの従者だから、近接攻撃が得意だ。もし頼りにしてくれるのなら喜んで歓迎する」
なかなか固めな発言だった。涼はそういう、固めなコミュニケーションが苦手だった。なんだか、真面目なサラリーマンみたいだ。そういうのって堅苦しい。
「あと、弓タイプと盗賊タイプがいる、彼らとも会ってみないか」
バーンズが助け船を出す。
「うん、会ってみたい!」
涼は首肯した。
「こっちだ」
バーンズは従者たちの家のドアを開けて、中に入った。
涼も一緒に入った。
家の中は今は使われていない暖炉があり、リビングルームがあり、奥に三室、寝室があるようだった。
リビングルームには顔の赤黒いエルフがいた。
「オレはダークエルフのシエスタだ、弓タイプの従者をしている」
顔の赤黒いダークエルフのシエスタが涼に簡単なあいさつした。
バーンズが涼の簡単に紹介をした。
「人間の子が来たのは久しぶりだな」
シエスタが言った。
「ああ、そうだ」
バーンズが言った。
「前回人間の子が来たとき、その子はどんな旅をしたんですか?」
涼がシエスタに訊ねた。そのときバーンズが首を軽く二回振り、目をつぶって悲しい顔をした。
「前回の旅は盗賊タイプのルカが従者をした。しかしルカは途中で失踪した。理由はわからない。突然いなくなったんだ」
「それで人間の子はどうなったの?」
「人間の子はこの異世界、スキゾニーで人格が荒廃し、死んだ」
涼は心に槍が刺さったような衝撃を受けた。そんな危険な旅を自分がしようとしていることに動揺した。自分はスキゾニーに来て大丈夫だろうか。
「なんで従者のルカが失踪しただけで、人格が荒廃するんですか?もう一回従者を選んでやり直せばいいのに」
涼は自分の考えを吐露した。
「少年よ、このスキゾニーにもう一回やり直すとか、挽回するチャンスはないだよ。スキゾニーで生きるのは難しいことなんだ」
シエスタは言った。
そのときだった。奥の寝室からネコの顔をした全身を獣の毛に覆われた男?が出てきた。
「オレはカジートのルカだ」
カジートとは人間の姿で顔だけネコの顔をした生き物だ。なにかのRPGのゲームをしたときに覚えた。
「えっルカって失踪したんじゃないの?今いないはずじゃ…」
「三日前に戻ってきたんだ」
バーンズがまた悲しい顔をして言った。
「こいつはまだなぜ帰ってきたのか、なぜ前回の旅で失踪したのか、理由を話さないんだ…、呆れたやつだよ」
シエスタが呆れた顔をしながら言った。
僕はいったい誰を従者にすればいいんだ?
涼は誰を従者に選べばいいか、わからなくなった。
あすか 久石あまね @amane11
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