第2話 選ばれし勇者
涼はいつの間にか目を覚ましていた。
頭の痛みはなぜかなくなっていた。
トンネルの中は薄暗いが、トンネルの向こう側は太陽の光が差していて明るかった。ぼんやりと霞んだ明るさを感じる。
かなりの暑さを感じる。
あれ、なぜだか、秋なのにこんなに暑いのかわからなかった。
あれっ、さっきまで夜だったのに、なんで明るいの?僕はトンネルの中で寝ていたのか?でもなぜ僕はトンネルの中にいるんだろう?あっそういえば、頭の中で飛鳥の声が聴こえてきて…
涼は頭の中が混乱した。
「どないなっとんねんっ!」
「おれ、こんなとこでなにやっとんねん!」
「ここどこや!?」
涼はいつの間にかよくわからない世界に来ていたのだった。しかし暗いトンネルを引き返そうとは思わなかった。なぜならこの世界には飛鳥がいるかもしれないと思ったからだ。
涼はトンネルを駆け足で出た。絵本の中に出てくるようなウッソウとした緑の森の植物たちが涼を迎えた。カラフルで様々な果物の実がそこら中にあり、どれも美味しそうだった。つばが泉のように湧き出た。しばらく森の中を歩いていると森が終わり、視界がひらけた。赤や青、緑の家々が連なる村に出くわした。衛兵がひとり、腰に剣を携え、村の入り口を歩き回っていた。村の入り口は誰でも入れるような軽い門しかなく、防犯上これはどうなのかといった具合の、なんのためにあるのかわからないような門だった。
涼は衛兵に近づいた。
衛兵と目が合う。瑠璃色の目だった。髪はクリーム色で顎には優しい感じの、同じくクリーム色のひげが生えていた。
衛兵が微笑んだ。
「やぁ、君はこの世界に迷い込んだ人間の子のようだね」
涼は意味がわからなかった。
人間の子?人間の子ってどういう意味?
人間の子の意味がよくわからなかったが、涼は自分の今の状況からだんだんその意味がわかってきた。つまり自分は異世界にやって来たということだ。この状況は映画か何かで体験したことあるぞ。
「僕は異世界に迷い込んだのですか?」
涼はおずおずと尋ねた。
「これは物分りのいい人間の子だ。君は利発だね」
「あ、ありがとうございます。でも僕は元の世界に戻らないといけません。お母さんも晩ごはんを作って待っています」
「君、そう簡単には元の世界に戻れないぞ」
「え、なんでですか?」
「君は選ばれたからこの世界にやって来たんだ」
選ばれたってどういうこと?
「いったい誰に?」
「君、この世界に来る前に頭の中で声がしなかったか」
「しました、友達の女の子の声がしました」
飛鳥の声だ。たしかに飛鳥の笑い声が聴こえていた。
「君はその子に選ばれたからこの世界にやって来たんだ」
「ええ?よくわかりません」
「そりゃ当然だ。この世界にやって来た人間の子はみんなそう言う。君は今からその子に会いに行かなければならない。支度をするぞ。この村はこの世界、スキゾニーに迷い込んだ人間の子のために存在する村だ。君に従者を一名付けることにする。スキゾニーではそういうことになっている」
どうやら僕はその世界で飛鳥に会うことになっているらしい。そして僕は飛鳥に選べれてきたらしい。
いったいどういうことなんや。
「おれ、どないなってもうてんな」
涼は独り言にしては大きな独り言が漏れた。
衛兵はそれを聞いて、ハハと、笑った。
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