あすか
久石あまね
第1話 ハジマリ
秋の赤い太陽が、山の向こう側に沈もうとしている。小学六年生の
九月下旬。
日が暮れるのも早くなった。その分遊ぶ時間も短くなる。涼は友達と遊ぶのが大好きだ。でも今日の野球は、プレーしていて泣きそうになった。わざとデッドボールを当てられたりしたからだ。涼は「なにすんねんっ」と怒ったが、全く相手にされなかった。しかも、涼がデッドボールを当てられるのを、観戦にきた
また、涼は学校でいつも飛鳥にちょっかいを出していた。ちょっかいとは普通の男の子が言ったら恥ずかしがるようなことを、ぱっと言うのだ。飛鳥はそれを聞くと、「涼くん!こら~」と言って、顔を赤くして怒るのだ。涼はそんな飛鳥を見るのが大好きだったのだ。
そんなことを家までの道を自転車でこいで考えていたら、「お~い」と遠くから呼ばれるような声がした。
一体誰や?
涼は自転車をこぐのをやめて、片足をついた。
そっと耳を澄ます。
「お~い、だれかぁ~」
女の子の声だ。それも可愛い感じの女の子の声だ。小学生ぐらいか。
「聞こえているんでしょ〜」
涼は当惑した。
その声は飛鳥の声だったのだ。
でもどこを見渡しても飛鳥の姿はどこにも見えない。見えるのは住宅街の中の電信柱やゴミ箱をだけ。
住宅街の真ん中で涼はポツンとひとり、立ちすくんだまま。
でも耳の奥で、まだ飛鳥の声がする。
今度は飛鳥の笑い声だ。
「キャハハッ!」
たしかに飛鳥の笑い声だった。
その声が涼を魔法にかけたのか、涼の鼓動はドキドキと脈打った。
やがて涼は操り人形のように自転車を捨て歩き出してしまう。涼は自分の意志と反するように、右足、左足と歩を進めた。涼は住宅街を抜け出た。細い道を下り、山の方へと向かっているのだ。しかし飛鳥の笑い声はまだ続いていた。それもどんどんその声が大きくなってきているのだ。涼の心は完全に飛鳥の笑い声に支配されていた。
飛鳥、飛鳥と涼は無心で操り人形のように追い求めていたのだ。
涼はいつの間にか、山のトンネルの前にきていた。
日は完全に暮れて、辺りは闇が支配していた。月明かりだけが頼りだった。
涼はトンネルへと吸い込まれるように入っていく。トンネルには線路が引かれていた。かつて電車が通っていたのだろう。水溜りもあり、足元の状態はよくない。
「涼く〜んっ!こっちこっち!」
飛鳥が呼んでいる。早く行かないと!飛鳥が待っている!
トンネルの向こう側は完全に真っ暗だ。でも涼はちっとも怖くなかった。だってトンネルの向こう側には飛鳥が待っているから。
「あともう少し、がんばれ〜」
涼は足を進める。
すると突然、頭に激痛がはしった。ズッキンズッキンする。頭が割れそうだ。
そして、いつの間にか涼は気を失って倒れていた。
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