帰省

尾八原ジュージ

帰省

 実家、もう何年も帰ってないんだよね。

 あたしだけ仏間に寝ろって言われるから。


 うちすごい田舎でさ。

 帰省すると、遠いからどうしても一泊しなきゃならないのね。周りにホテルなんかもなくって、泊まれるとこっていえばもう、実家だけなの。

 上京して長いもんだから、あたしの部屋はもう物置になっちゃってるの。まぁそれはいいとして、仏間で寝るのが厭で。

 仏間ね、立派なお仏壇があるの。田舎の古ぅい家だから。

 夜は扉締めてるんだけど、真夜中になるとその扉がスゥーッと、ひとりでに開くの。朝になるといつの間にか閉まってるんだけど。

 そう、開くだけ。でもそれだけだって十分怖いでしょ? 実際見てみなよ、ほんっとに不気味なんだから。

 もちろん、親にも兄夫婦にもとっくに文句言ってるの。でも「お仏壇が勝手に開くわけないでしょ」って笑われちゃうのよ。あたしの言うことなんか聞きゃしないの。

 でも帰省するたんびに言うのよ、みんな。

 仏間に寝なさいって。

 あたしは居間にでも寝るからそれでいいって言ってるのに、ほんとに頑ななの。

 まだ四歳だった姪っ子にまで言われたんだからね? おねえちゃん、のんのんさんの部屋でねてねって。


 あのさぁ。

 最後に帰省したとき、気づいたの。


 あたしが仏間で寝てる間、あたし以外のみんな、廊下で見張ってんの。


 あたしが仏間から逃げ出さないように、みんなずっと廊下にいるの。

 次の日の朝なんか、父も母も兄も兄嫁も、姪っ子まで寝てなくて、みんな目が真っ赤なの。それなのに何でもないような顔して「おはよう。よく眠れた?」なんて、ニコニコしながら聞くの。

 急にすごく怖くなっちゃって。

 色々言い訳して強引に予定切り上げて東京に戻って、それから一度も帰ってない。原因とか目的とかなんにもわからないけど、でももう調べるのとかも怖くて、そのまま。

 たぶん今年も帰らないよ。


 あーあ。

 普通の家族だと思ってたんだけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰省 尾八原ジュージ @zi-yon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説