ひかりは液体さくらは気体

第1話ひかりは液体さくらは気体

その髪は澄んだ光に濡れていて　宙にはりつけられたソメイヨシノ

幾千のJポップが言う「君」たちが　はじめて人の形をとった

特別に幸せなわけじゃないけれど　私の表紙絵はたぶん今日

機会は花　ずっと育ててたいけれど　誰かに摘まれるくらいならばと

ハンカチを持ち歩くようになった　食事にお金を惜しまないようになった

固体の虹を　宝箱に詰めカギかけて　大人になるまで絶対あけない

石を投げ入れれば波紋が浮かぶように　影響を及ぼすための両手

笑顔より涙で滲む顔が見たい　あなたは天才子役じゃないから

小さな歪みすら正当化するような　誰にも触れさせない文法を

傷口にメープルシロップ塗りたくるような優しさをもっと近くで

三段階の粗さの紙やすりで仕上げた　なめらかな肌をあなたと合わせ

甘えられたら底なしに甘やかす　真面目な話はしたくないから

メモ帳に打っては消して言葉研ぐ　伝えぬまま研ぎつかれて眠る

遊園地の半券も　レシートすらも　捨てられぬまま重くなってく

ふわり綿毛が浮くような一日が来て　ぜんぶうまくいくんだと思った

雷に怯えて眠れぬ女の子も　怯えたままで大人になってく

私とあなた　二人で始めたピンボール　出会いの日に出したハイスコア光る

クラッパーボードの音を聞いた　目が覚めて世界の美しさが戻った

春という季節があなたを隠すから　ひかりは液体さくらは気体

人は去り　魔法が解けて光はかわき　ソメイヨシノは重力をゆるす