伊澄くんにキスされる方法

炭石R

伊澄くんにキスされる方法

 私と伊澄いずみくんは付き合ってる。

 幼稚園の時に初めて顔を合わせてからずっと仲が良くて、中学1年生の時に告白されて、付き合い始めた。それからもう4年が経つ。


 付き合ってから何度もデートに行ってるし、細かいことにもすぐ気づいて、褒めてくれる。

 それに、ちゃんと好意を言葉にしてくれるから、愛されてるってすごい実感する。


 一緒に居るだけ。いや、話したり、声を聞いたり、伊澄くんの写真を見ているだけでも幸せ。




 でも一つだけ不満がある。






 ——手を出して来ないっ!






 大切にされてるってことは解ってる。でも、もう高校2年生だよ?ハグとかキスどころか、私の手までしか触って来ないってどーゆーこと?

 別に一線を超えて欲しいとまでは言わないよ?でも、私は伊澄くんに抱きついてるよね?伊澄くんから抱きしめられた記憶が無いんですけど?!






 ……ふぅ。ちょっと落ち着こ。


 伊澄くんも、私と色々したいと思ってるはず。部屋に隠し持ってたえっちな本は、幼馴染の本だったし。

 でも、遠慮してる。伊澄くんはいつもそう。私がしたいって言ったことは何でもしてくれるけど、自分がしたいことは後回しにするし、遠慮する。


 告白もそうだった。小学4年生になった時には両想いって解ってたのに、告白はしてくれなかった。

 中学生になってから私が告白されて、まだ返事はしてないけど、このままだと受けちゃうかもよ?って言ったらやっと告白してくれた。


 付き合ってからは伊澄くんの方からも色々としてくれるようになったけど、それでもまだ足りない。もっともっと私を求めて欲しい。




 ——でも、解決策は見つからない。




 友達に相談しても、そもそも彼氏すら居ない私達に聞くな!って言われちゃったし、ネットで調べたことを実践してもダメだった。

 してないのは、一つだけ。




 ――家で二人っきりの時に誘惑する。





 これをしても何も起きなかったらショックだし、逆に伊澄くんが狼になっちゃっても困る。

 いや、私は困らないんだけど、伊澄くんが後悔するから。勢いで私に手を出したことに罪悪感を感じて、今以上に手を出してくれなくなると思う。


 だから絶対にしない。






 そうやって万策尽きたと思ってたけど、少女漫画を読んでる時に答えを見つけた。

 主人公の女の子が幼馴染の男の子に告白するシーン。帰り道に告白しようとしたんだけど、キスで唇を塞がれちゃう。そして逆に告白される。


 電流が疾走って、コレだ!!ってなった。




 作戦を考えた。

 まずは伊澄くんにこの漫画を読んでもらって、幼馴染の唇はキスで塞ぐものだって教える。

 そしたら伊澄くんの腕を縛った状態で、伊澄くんのお母様に電話を掛ける。そして、えっちな本を隠し持ってたことを報告する。隠し場所とか、内容も全部バラしちゃう。

 縛られた状態だと私の唇を塞ぐにはキスするしか無いし、伊澄くんがそれ以上のことをしたくなっても、行動に移せない。

 完璧な作戦だと思う。


 一度したらハードルが低くなると思うし、私が何かバラそうとする度にキスされるようになるかもしれない。

 もしかしたら伊澄くんがキスにハマっちゃって、私が何も言わなくてもされちゃうようになるかも?!




 まあ、本当にえっちな本のことをバラすのは可哀想だから、事前にお母様の声を録音しておく。

 嫁姑の関係は良好だから普段からよく通話するし、その中で使えそうな音声が手に入ると思う。


 あとは伊澄くんを縛るのが大変かもしれないけど、寝てる間に縛れば平気だと思う。伊澄くんは横向きで寝るから縛りやすいはず。








 ——実行日になった。今は朝の5時30分。


 昨日は、深夜3時まで伊澄くんと通話してた。私はお昼寝をしたからそのまま起きていられたけど、伊澄くんはぐっすり寝てると思う。

 1時を過ぎた辺りから伊澄くんは眠そうだったけど、私がまだ声を聞いてたいって言ったら、それに応えてくれた。


 チャイムを鳴らすと伊澄くんが起きちゃうかもしれないから、合鍵を使って鍵を開けた。そしてお母様に挨拶をしてから、伊澄くんの部屋に行く。


 こっそり扉を開けると、伊澄くんの可愛い寝顔が見えた。足音を立てないように近づいて、布団をゆっくりと捲った。

 うん、予想通り。両腕は横にあるから、あんまり動かさなくても縛れそう。

 鞄からガムテープを出して、縛ってく。結束バンドとか手錠も考えたけど、伊澄くんの腕に傷を付けたくない。




 無事縛り終えたから、馬乗りになって伊澄くんを起こす。


「可愛い彼女が起こしに来ましたよ〜?」


「……」


「伊澄くん、起きてー」


「………」


「早く起きないと可愛い寝顔を撮っちゃうよー!」


「………ぐぅ」


 起きてくれない!


 でも、昨日は3時までずっと通話してたんだから、当たり前かも。

 それなら本当に寝顔を撮っちゃおう。前から撮りたかったんだけど、普段の伊澄くんは寝起きが良いから、すぐに起きちゃって無理だったんだよね。


 ――パシャッ


 うん。いい感じ!ついでに寝顔とのツーショットも撮っておこう。


 ――パシャパシャッ


 最っ高!ツーショットだとこの可愛い寝顔が私だけのものって感じがして、ヤバい!!


 興奮してきた私は、色んなポーズ、構図で写真を撮る。カメラに向かってピースしてみたり、伊澄くんのほっぺたを軽く突いたり、縛ってる腕が写らないようにしながら一緒に寝てるみたいな写真を撮った。






「……ん?」


 あ、起きたみたい。寝顔を撮ってたのがバレないように、急いでスマホをポッケに入れる。


「伊澄くん起きた?どう?朝起きてすぐに、可愛い彼女と会える気分は」


「ん…菊梨きくりか……最高だよ」


 最高なんだ!まだ寝起きでいつもよりもボーっとしてるのにそう言われると、すっごい嬉しい!


「ん……?腕が……?」


 伊澄くんは腕が動かないことに気付いたみたい。


「てへ、縛っちゃった」


「どうしてこんな事したんだ?」


「それはね、伊澄くんにイタズラするためだよ?」


 伊澄くんはまだ眠そうだけど、私がこれからすることを知ったら目が覚めるはず。

 スマホを取り出して、お母様の電話番号を入力したら、伊澄くんに見せる。


「この番号、分かるでしょ?今からお母様に電話を掛けて、伊澄くんが持ってるえっちな本の隠し場所と内容をバラしちゃいまーす」


「……っ!ちょ、ちょっと待って?何で知ってるんだよ!しかも内容って!読んだのか?!」


「うん、読んじゃった。3冊あって、全部幼馴染とえっちなことをする本だったね」


「終わった……」


 伊澄くんは絶望してるみたいだけど、まだ始まったばっかだよ?


「まあ私は気にしないから安心してよ。お母様が何て言うかは、わからないけど」


「う、嘘だよな?菊梨はそんな酷い事しないよな?!」


 する訳無いじゃん。

 でも、声には出さずに用意しておいた録音を流す。


 ――トゥルル♪ トゥルル♪


「ま、待って!俺が何かしたなら謝るから!それだけは勘弁してくれ!」


「伊澄くんは自分がしたことよりも、を反省して欲しいな〜」


「しなかった事?なんか忘れてるのか?俺」


 何のことかわからないみたい。

 まあ自分がしてないことを反省するって、普通に考えて無理だよね。

 でも私は止まらない。キスされやすいように、伊澄くんの隣に横になる。そしてスマホに通話中の画面のスクショを出して、ポケットの中で間違えないように録音を流す。


「もしもし?菊梨ちゃん?」


「おはようございます、お母様。ちょっとお母様に報告しないといけないことがありまして……」


「え、どうしたの突然?何かあったの?」


「実は、伊澄くんがえっちな本を隠し持ってたんですよ!私という彼女が居るのに!」


「それは良くないわね」


「だから罰として、お母様に隠し場所と内容をバラしちゃいます!煮るなり焼くなり、好きにしちゃってください!」


「わかったわ。こっそり捨てておくわね」


「隠し場所はタンスの下から二段目の、下着が入ってるとこです。底に隠して、上から板を置いて二重底にしてありました」


「それで、どんな内容だったの?」


「3冊あって、全部幼馴染とえっちなことをしてました。これって私とそういうことをしたいって意味ですよね!?」


「そうね…絶対そうだと思うわ」






 ―――ねえっ?!バラし終わっちゃったんだけど!ここまで準備したのになんでキスしてくれないの!!


 伊澄くんはなんか呆れた顔してるし!なんなのその顔!!!




「……なあ、終わったか?」


「終わったよ!隠し場所も内容もぜーんぶバラしちゃったから!あとでお母様にじっくりお説教されるだろうねっ!!」


「で、何でこんなやったんだ?」






「え……?」


「いや、さっきの通話画面よく見たら時間が止まってるし。それに会話もあんまり噛み合ってなかったから。どうせ録音だろ?」


 えっちな本のことがバラされてるのに、やけに静かだと思ったら気づいてたの!?


「気づいてたなら早く言ってよ!」


「いや、バレてるのに一人で話してる菊梨が可愛くてつい……」


 そ、そういう理由なら仕方ない。伊澄くんは私のことが大好きだもんね。


「で、何でしたんだ?」


「そ、そのくらい自分で考えてよ!」


 これは逆ギレ。自分でもわかってる。

 でも、もう我慢できない。今日ファーストキスをするって決めてたんだもん。どうしても伊澄くんからしてくれないなら、私からする。


「一応その、予想してる事はあるんだけど……」


「じゃあそれをして!」


 もし見当違いなことをしてきたら本気で怒るけどね。流石に眠くなってきたし、腕を縛ったまま脚も縛って抱き枕にして、眠るまでずっとキスの刑に処しちゃう。


「その、本当に良いんだな?」


 私は返事の代わりに目を瞑った。


「……行くぞ?」






 伊澄くんの唇が少し触れる。






 ……やっと、キスしてくれた。


 伊澄くんからしてくれたのが嬉しくて、全身がぽかぽかしてる。

 触れたのは唇だけのはずなのに、伊澄くんに全てを包み込まれたみたいに幸せでいっぱい。


「ありがと。伊澄くん、大好き」


「俺も。大好きだよ」


 そう言ってもう一回キスされた。








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