秋華賞 古豪への足掛かり
秋華賞、秋の牝馬初戦。少女から大人へと成長した美しい乙女達が集うレースが今年もやってきた。ターフは青々とした芝生で秋を感じさせないが、風は涼しくなってきており季節の変化を感じる。一度しかレースに出られないクラシック戦。ティアラ路線は最後の冠、そして次は古豪と女王の証の奪い合いの勝負になる。
牝馬クラシック最終戦、秋の花型は誰となるのか。その答えはパドックを見れば一目瞭然だった。まだ勝負の行方は不明だと言うのに一際、輝く馬が2頭いる。鮮やかな夕焼けのように見栄えの良いシルキーモーヴと烏の濡れ羽色のように艶やかな光を放つニニアソネットだ。この2頭は春の頃からライバルで今回も名勝負を生むだろうとファンは確信に近い予感を漠然と胸に抱く。両者共に落ち着いているが闘志を溢れさせており、他の馬は近づくことすら出来ないだろう。
「やっぱり凄いな」
「だな、あの2頭が今年の世代代表だよ」
「オークス馬なら負けられないね!」
観客席ではそんな会話が交わされている。レース前のパドックには他にも人気どころの馬がおり、粒揃いである。しかし、競馬ファンの大半はあの2頭に釘付けだ。他の馬を応援している者達ですら、勝ち負けをするのはあの2頭のどちらかだろう、と認めざるを得ない。それほどまでに両者の仕上がりは素晴らしく、観客達はどちらが勝つか予想も出来なかった。
『今、各馬ゲートインが完了しました。最後に大外18番、シトリンアステールがゲートイン』
大きな音を立ててゲートが開く。それと同時に芝生と土を蹴り上げ走り出す。出遅れた者はおらず、綺麗にスタートを決めた。
まず先頭に立ったのは3番…と実況が各馬の名前を読み上げる。シルキーモーヴは現在、5番手と好位置に付けている。練習のかいがあって初めての先行策でも落ち着いた様子を見せている。それに解説の元騎手が言及する。
『今回シルキーモーヴは先行策。彼女はいつも逃げていたね。今回は控えて後ろに付けているから、これは作戦ではなく彼女の性格が落ち着いた証拠だろうね』
続いて6番、7番と続き最後方にニニアソネットがいる。後方待機は彼女の得意戦法であり、今日もそれを貫くつもりのようだ。そして1コーナーに入り、各馬は場所の良し悪しはあれど、ポジション争いを終わらせる。先頭集団は競り合うが後ろの方は比較的ゆったりとした展開となった。付かず離れず、各々の競馬をしながら向正面、4角へ向かって駆け抜ける。
残り600m付近、ここから一気にペースが上がる。今まで溜め込んでいたエネルギーを放出するかのように全力で走る。特に追い込み型の豪脚は見物である。
『団子状態の大接戦!ここで抜けてくるのはシルキーモーヴとニニアソネットの二強だ!』
アナウンサーの声が響き渡り、競馬場全体のボルテージが上がる。歓声が上がり、熱狂が渦巻く中、シルキーモーヴとニニアソネットはゴール前で大接戦。激戦の末、写真判定に持ち込まれるがそこでも審議が長引いてしまう。議論の末、勝ったのは
『シルキーモーヴ!二着にニニアソネット!!桜の女王はやはり強かった!』
アナウンサーの声が響くと同時に観客席から悲鳴のような歓声が上がる。一番人気と二番人気の決着となり、馬券を当てた者や応援していたファンの歓喜で地鳴りのように揺れる。掲示板には写真判定の結果が表示され、ニニアソネットにハナ差で勝利を飾ったことが告げられる。
ターフの虹彩 おしゃんな猫 @stylishcat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ターフの虹彩の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます