最終話 ふたりの道

「……え? はあっ!?」

「もちろん衣食住は保証しますよ。私はこれでもすごい魔法使いです。凛さんに不自由はさせません。料理も得意ですし、いつでもおいしいご飯とドリンクをお出ししますよ」

「え、いや、ちょ――」


 突然まくし立てるようにメリットを猛プッシュするマギに、凛は言い返す言葉を見つけることもできず、身じろぎする。


(な、何なの!? カフェ!? 私と!? 私みたいな無力なただの高校生拾ったって、マギさんにメリットなんて何も……)


「……私は凛さんと出会ったばかりですし、ほかの方々が凛さんをどう思っているのかは知りません。でも、少なくとも私は、凛さんのような方が死んでしまったらとても悲しいです」


 マギは本気だった。そんなマギの真っ直ぐな思いを受けて、凛は無自覚なまま、目に涙を浮かべていた。

 溢れ出した涙は留まるところを知らず、凛の頬を伝い、ポタポタと服に丸いシミを作っていく。


「え? は? いやいや待って。だって私は――」

「凛さんがおうちに帰りたいのであれば、それは止めません」

「それは――ないです」


 帰るたびに「そんな暗い顔しないで」「空気が悪くなる」と嫌な顔をされるあんな家、もううんざりだった。


(というかマギさん、私が死ににきたの知ってたんだ……)


「それなら! あ、お試しでもいいですよ」


 マギはにっこりと微笑み、まるで簡単なことのように言ってのける。


「…………ま、まあ、お試しでもいいなら」

「ありがとうございます! では早速準備をしなくてはいけませんね。まずは部屋を整えなくては。それから――」


 意気揚々と計画を練り始めるマギを見て。我ながら頼まれると断れない性格だな、と、凛は思わずため息をつく。しかしそれと同時に、少しだけ前を向けている自分に気づく。


(――まあ、いっか。どうせ死のうと思ってたんだし。やっぱりだめだったら死ねばいいんだし)


「――り、料理は私もできます。協力し合っていきましょう」

「なんと! 凛さんの料理、楽しみです」


 自殺の名所、樹海の奥。古びた大きな屋敷の地下にある、魔法使いが営む「地底カフェ」。この日、そこに新たなメンバーが加わった。


「ちなみにこのカフェ、メインの客層は迷える魂――つまり幽霊さんです」

「はあっ!? 聞いてないんですけど!?!?」

「あはは、言ってませんでしたっけ? 大丈夫、良き魂しか入ってこられませんし、何かあっても私が全力でお守りします」


(はあ。本当に自由な人――じゃなかった、魔法使いだなあ)


 凛はそう、心の中でため息をつく。が、同時に、自分もこの地底カフェのように、そしてマギのように、マギや迷える誰かに力や癒しを与える存在になれるかもしれない、とも感じて。

 心に、キラリと小さな光が灯った。

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