第6話 死にたい凛の事情

 少し前まで、凛はいたって普通の高校生だった。友達がいて、クラスの子ともそれなりに仲が良くて、家族仲も良好だった。


 ――でもある日、あるクラスメイトがいじめを受けるようになった。

 その子は仲良しグループの子ではなかったが、そこそこ気の合う、それなりに話もしていた子だった。だから凛は、そのいじめを見過ごせなかった。


 靴を隠されて帰れなくなっていたその子に靴を貸し、先生に事情を説明して、自分は家が近いから大丈夫、と上履きを履いて帰った。しかし――その一部始終を、クラスのカースト上位女子に見られていたのだ。


 翌日から、いじめのターゲットが凛に移った。助けたその子は、凛のことを助けてはくれなかった。仲良しグループの子たちも離れていった。最初こそ黙って耐えていたが、いじめは次第にエスカレートし、凛はついに学校に行けなくなった。学校の近くまで行くと、実際に体調が悪くなってしまうのだ。


 それでも、両親はずっと味方をしてくれて。学校に行けと責め立てることもなく優しく見守ってくれた。凛は、そんな両親を心の支えに生きていた。


 だが先日――そんな優しかった両親が突然亡くなった。事故だった。


 それからすぐに、両親との思い出が詰まった家を出て行くことになった。凛は親戚の家に預けられ、家にいられても困ると学校へ行くことを強要された。

 その頃にはいじめは学年中に広がっていて、厄介者として先生たちからも腫れもの扱いされる羽目になった。


 そうした生活が続いていく中で、凛の中に「死にたい」「消えたい」という気持ちが蓄積されていき。ついに自殺を決意したのだった。


 そこからは早かった。学校へ行くと嘘をついて家を出て、持ってきた私服に着替え、なけなしの貯金をすべておろして電車を乗り継ぎ、この樹海へとやってきた。そして今にいたる。


「……正義が勝つのは、物語の中だけ、なのかもしれませんね」

「か、勝手に人の心を読まないでください!」


 凛の言葉に、マギは苦笑する。


「すみません。あまりに辛そうな顔をしていたので……」

「……べつにもういいんです。私はきっと、生きるのに向いてないんですよ」

「……そうですか。――あ、そうだ! それなら凛さん、1つ提案があります」

「提案?」


 マギは急に真面目な顔になり、じっと凛を見つめる。そして――


「ここで、私と一緒にカフェをやりませんか?」

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