第5話 魔法使いマギの過去
「当時私は、その村のはずれで薬局を経営していて、薬を作り、それを売って生計を立てていました。村を出たことはなく、お客さんは100%魔法使いで、私は自分の薬がみんなを幸せにしていると信じていました。でも――」
マギはそこまで話し、少し陰りのある表情を見せる。
「私が作った薬は、私の意図しない形で使われていたんです」
「……意図しない形?」
「魔法使いの薬は、魔法使いにはいい効果をもたらしますが、人間の体には強すぎるんです。飲めば病気は治りますが、依存性が高く、薬がなければ生きられない体になってしまいます。私の薬を買った魔法使いたちは、それを理解したうえで人間に飲ませ、奴隷にしていたんです」
それは、マギにとって許しがたい行為だった。病気や傷を治すための薬が、誰かを幸せにするために作っていた薬が、人を不幸にすることに使われていたから。
「だから私は、薬を売るのをやめました。元々店は大繁盛していたので蓄えもありましたし、ゆっくり別の仕事を考えようと思っていました。でも、奴隷化した人間の売買は、私の知らないところで村の一大ビジネスになっていて、私は村を潰す気かと非難され、財産のほとんどを没収され村を追い出されてしまいました」
「――そんな」
あまりにひどい。ひどすぎる。魔法使いたちの行為に、そしてマギへの仕打ちに、凛は怒りに震え、思わずキュッと唇をかみしめる。
「それから私は旅を続け、ここにたどり着きました。そしてたまに、凛さんのような心の綺麗な迷い人をカフェに誘っているというわけです。ここは静かでいいところですよ」
「心の綺麗な迷い人……」
マギのそんな言葉に、凛の心の中に、どうしようもなく後ろめたい気持ちがじわりと広がっていく。世の中に絶望し、人を恨み、死に場所を求めて樹海を彷徨っていたと知ったら。そしたらどう思うだろう? そんな思いが、凛の心を締めつける。
「私、は、マギさんが思っているような人間ではないですよ」
「人間は、魔法使いに対して心を偽る術を持っていません。あなたの心は、たしかに綺麗ですよ」
(ああ、マギさんはずるいな。そんなふうに言われたら何も言えないじゃん)
凛は戸惑いと気恥ずかしさを隠そうと、視線を伏せてドリンクに口をつける。甘酸っぱさと炭酸が口内をくすぐる感触が、自分の心境と重なり、心を見透かされているような気がした。
(でも、そっか。マギは私と似てるんだ……)
マギがここへ来た経緯を聞いて。凛は、自分に起こった理不尽な出来事と重ねていた――。
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