12. 自由商会
「近年、自殺に抵抗を持つ人は減少傾向にあります。
前時代的なメディアが無くなり、倫理感が刷新され、死へのネガティブなイメージが覆されたためです。契約と費用を掛ければ誰でも自由に自殺が出来る様になったのです。」
もちろん、弊害はある。と私は営業課のサチヨのスピーチを聞きながら考えた。
例えば自殺希望者が多すぎることだ。
「ねえ!」
「わっ」
突然私は隣に座っていたアンドロイドに話しかけられる。彼らは嘘がつけないようにプログラミングされているので、ときどき挙動が極端なときがある。
「今夜お時間空いてます?」
「え?あの、、ごめんなさい、明日なら空いてますわ」
「本当?素敵、じゃあ明日の夜一緒にお出掛けしましょ」
スピーチをさえぎられたサチヨは少し苛ついている。
「SD-09、しばらくの間スイッチをOFFにしてもらえるかしら?」
会議室にはちょっとした笑いが起きた。いつもの事だ。SD-09は反省したそぶりをする。
「ごほん、話をもどしますが、」
研究室に向かう渡り廊下は、暗くて暖かくて乾燥していた。
「サチヨ、」
私は、前を歩くサチヨに声をかける。
「さっきのスピーチ良かったよ、要点わかりやすくてスマートだった」
「うん、ありがと。ねえハナ、私これから研究室に行くけど一緒に行く?」
「私もいくところだったの」
私とサチヨは並んで歩いて行く。
初夏の風は2人を追い抜いて行く。
「暑くなってきたよね、自由商会のプランってもうじきよね」
そう私が言うと、サチヨの顔が少し曇った。
「何?」
「あの、ほら希望者には自殺の場所とか内容選んでもらうっていうあれ」
「そうね忘れてた」
「ねえ私たちの入ったプランって内容も選べたかしら」
「えーと、確か入ってたよ。だってそれが良いってハナが言ったじゃない」
「うん。あのね、だってどうせなら私達でつくった新薬を使いたいなって」
陽は暖かく空気がとてものんびりしていた。睡気を誘う陽気だった。
「サチヨはさ、」
「うん?」
「サチヨは死ぬの怖くない?」
「え?どうして怖いの?」
サチヨは私の顔をまじまじと覗き込む。
夜食と地層 @kizono
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