戻ってくる
高黄森哉
また同じ場所に
「げっ。また同じ場所だ」
男は汗が噴き出て来た。ハンカチで常に拭っていないと、焦りからの発汗で、体中ぐしょぐしょになってしまいそうだ。
速足で、画面手前に退散する。すると奥から、同じ男が小走りで登場した。そして、はっと何かに気づく。
「げげ、ま、また同じ場所」
男はもう何度も何度も、同じ場所へ戻っていた。同じ場所に来るたび、腰が抜けそうな思いがした。人間は目印が無いと、同じ場所をぐるぐるするそうだが、これもそういうことか。
「うう、も、元、来た道を引き返そう」
男は奥へ消え、当然のように手前から再登場する。パントマイムのように前に手を突き出し空間を探るが、特別、異常があるわけでもない。
「また戻って来たぞ」
ハンカチで額をぬぐう。ハンカチを絞ると、滝のような汗がばしゃばしゃと出て、真下に水溜りをつくった。
「趣向を変えてみようかな」
ぱっと反復横跳びの要領で、画面左側に消える。そして右側から同じ勢いで現れる。ありゃー、と今度は右へ跳ぶ。やっぱり、左から現れた。
「おかしいな。よし、次は縦方向だ」
男はジャンプして、そして同じ場所に着地した。男は、また同じ場所に戻ってきてしまった。当たり前だ。
「あちゃー」
ぴしゃりと額を叩く。汗の水滴がしぶきを上げた。
そして視点は、はるか遠くへ移動する。男はみるみる小さくなり、彼の立っている場所が完全に画面に収まる。なんと、彼が立つのは小さな天体だったのだ。
「いや、ちっちゃ!」
戻ってくる 高黄森哉 @kamikawa2001
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