第十話「魔法破綻」

「《飲鯨》!!飲み込め!!」


 出雲がそういうと、呼び出された《飲鯨》は、獣によって放たれる咆哮のすべてを飲み干す。


 5分、出雲が持たせると言ったその時間は、出雲の式神である《飲鯨》活動限界時間である。

 

 通常、式神に活動限界時間は無い、召喚者の魔力が尽きる、もしくは召喚者が式神を戻さない限り、式神はその場に在り続ける。

 

 が、その一匹の鯨にはそれがゆるされない、それはその能力がゆえである。


 《飲鯨》の特性は‘‘飲み込むもの‘‘その能力は、敵の魔力の放出などの砲撃系攻撃を飲み込む。そして、そこに加わる魔力を抽出し、召喚者に供給することができる。


 この能力は、魔力の消費を発動を同時に行う人族との対人戦にはあまり意味がない。が、魔法の発動ではなく、魔力を魔法へと変換しながら砲撃を撃ちこむ世界獣の攻撃は、《飲鯨》にとって、エサである。


 よって5分、それが、出雲の式神である《飲鯨》に与えられた制限である。が、その力はそれでも有り余るものだった。


 よってそこに加えられる制約は存在の不可、物理攻撃不能、干渉不能。‘‘飲み込むもの‘‘それを成すためだけに現れたその巨体は、獣の放つ魔法のすべてを飲み込む。


 《飲鯨》により供給された魔力により、活気づいた出雲は獣の下を走りながら、獣の目の前へと飛び上がる。


 瞬間、出雲は、動き出すと同時に、札を2枚取り出し使った。


「《九式戦法・神具》《九変強躰・裂風》」


 出雲が札を取り出すと同時に言い放ったその解言により、札はその形を一本の剣へと変える。

 それに加え、出雲の召喚により現れた鯨とは違い、竜巻のような風が出雲にまとわりつく。


《九式戦法》、それは事象を起こす九字とは別の九字を用いて行われる別の九事象であり、それは自身にその恩恵をもたらす九つの術。


 そのうちの二つである肉体の性質の変化をおこなう《九変強躰》と武器の生成を行う《天賦》を同時に使い、出雲は勢いよく獣に襲い掛かる。


 獣の放つ魔法のすべてを《飲鯨》が食らいながら、それによって生み出される魔力を持って、出雲は攻撃を繰り替えす。


 自身に行った《身体強化・赤・青》と自身にまとわせた五枚の結界の特性をうまく切り替えながら、攻撃と、防御を行い、獣に着々とダメージを与える。が、それでもなお獣は勢いを止めず、砲撃を放つことをやめない。


 その光景を眺めながら、舞離火は次の一手を頭の中で考えていた。


 陰陽術。その強みは、九式による自己への属性強化である。式神や九字による攻撃も強いが、ほかにはないこの属性強化という特性は、陰陽術にしかない。が、しかし、この戦乙女はその事象を許さない。


―—属性強化…マニュアルにはそんなものない。


 己の身体を風を纏わせ戦う出雲の姿を見て、舞離火は一人考え込む。

 属性強化、舞離火が考えたこと同様、《ラプラスギア》のマニュアルにはそんなものは存在しない。が、舞離火はただその一手にのみ勝機があると考えていた。

 

―—「あーぁ、まだまだ弱いや、私。 

 今もこうやって木の根っこで死にそうだし…でも、5分持たせます…か、そんなの任せましたって言ってるのと同じでしょ?ったく、ほんと陰陽師はめんどうくさくてしょうがないわ…」


 そう思いながら、舞離火は顔にかかった血を振り払いながら立ち上がる。


―—「マニュアルがないから…なんてしてたら、怜が来た時に守って上げられるかわからないし、任されたなら相応の動きをしないとね…マニュアルがなくても、魔法は使える。」


 そう思い込み、舞離火は魔法の構築を始める。


 マニュアルのない魔法の発動、それは可能である。そもそも、舞離火達のつけている《ラプラスギア》のメインギミックは、空気中に漂う魔素を、魔力に変換し、使用者に供給することである。


 要するに、マニュアルはあくまで説明書であり、方法を知っていれば、魔法の発動はできる。が、あくまでそれは方法、つまりは、詠唱を知っていればの話。詠唱を知らない舞離火には、不可能なはず…だった。


 だがしかし、《イセカイ》を旅してわずか一年で、A級一線にまで上り詰めたその実力に、禁書は微笑む。


 瞬間、舞離火の脳内に思い浮かぶ魔力の装甲が全身を覆う、《魔法装甲》に上書きされようとするそれは、《ラプラスギア》にはない。

 

 だとしても、禁書に微笑まれた少女は、その代物を今、自分の体にまとわせる。消えかける寸前の魔力を絞り出してその上に魔法の重ね掛けを行おうとする舞離火に、《イセカイ》までもが微笑む。


 瞬間、周囲一帯の魔素を吸い込んだその事態に、出雲が異変にきづく。


「魔素が…吸い込まれていく…」


 吸い込まれてく魔素の渦、その中心に降り立つ少女に、獣までもが見惚れる。


 そんな中、急激な魔力を手に入れた舞離火は、魔法を発動する。


 「「第一魔法 《身体制限解除》

 第二・三魔法 《魔法装甲・青》

 第四・五魔法 《魔法装甲・赤》

 第六・七魔法 《魔法装甲・風》

 第八・九魔法 《魔法装甲・雷》

 第十魔法 《魔法影装・剣》

 第十一・十二魔法 《魔剣装甲・赤》

 第魔法十三 《魔剣装甲・白》

 第魔法十四 《魔剣装甲・黒》」


 絶体絶命のピンチ、そこに、合計14の魔法、四肢には雷と風を纏い《ラプラスギア》の限界をはるかに超えた神速の戦乙女が誕生する。



―———??????————


「おい、フラクタル。まだかかるのか?そろそろ俺も出たいんだがよ、あと何日、俺は我慢してりゃあいい」


 薄暗い部屋の中、言葉の端々にいらだちと焦りをにじませながら、レガリアは自分の腕につけられているはずの機械を好き勝手にいじくりまわすフラクタルと呼んだ少年のような男に言葉を放つ。


「まぁまぁ、落ち着きなよレガリア。大丈夫、君と堺君が見込んだ二人なんだ、持ちこたえてくれるよ。もうすぐ堺君たちもくる。ゲートの修正は終わってる。大丈夫さ」


 落ち着いた様子でフラクタルは言葉を返した。


「ほら、魔素が乱れてきた。一方向に向かって魔素が吸い込まれてるみたいだ。誰かが吸収を始めたね」


 フラクタルは自分の周りから魔素が急激になくなっていくのに気づき、そういった。


「魔素の吸収…あとで魔症にならねぇか心配だよ。で?あとどれだけかかる」


「せっかくそらそうとしたのに…早くても5時間だね、まぁ、あとは最後の微調整だから。

 それにしても君の兄さんには感謝するべきだ。ここまで詳細な《ラプラスギア》の情報、僕が彼女に直談判してももらえるかわからない」


 フラクタルがそういうと、レガリアは舌打ちをしながら言葉を放つ。


「何千年前のやつの話だよ、あいつのことなんて、何も覚えてねぇさ」


「彼は今もいきてるじゃないか…まったく、まだ彼のことが嫌いかい?

 まぁ、僕に君たちのことをとやかく言う権利はないが、彼の子供のためにここまでしてるんだ。君もなにも…いや、今はこんな話をしてる場合じゃなさそうだね」


 フラクタルがそういって会話を止めると、レガリアも何かに気づく。


「双方満を持して大将の登場ってところかな?」


 少しの沈黙の後、にやけながらフラクタルが言葉を放つ。


「そうみてぇだな。フラクタル、あれはあるんだろ?貸せ」


 フラクタルの言葉を聞いて、何かを求めるようにレガリアがフラクタルに言葉を返すと、フラクタルは顔をこわばらせ、言葉を強くして返答した。


「それはだめだ。許可は出せない。堺君たちももう来るんだ 、別にあっちもおっぱじめる気はないだろう。そもそも、今ここを取りに来る必要がない」


「あ!?もしあいつが出てきたら、堺たちが来る前にあいつらは死ぬだろ!?あいつだけはレベルが違う!!」


 レガリアは怒りをあらわにしながら、フラクタルに怒りをぶつける。


「それでも、君の命を危険にさらすわけにはいかない。守り人なんだ、それくらいわかってるだろう?」


「そんな役柄、あいつが勝手に俺に押し付けただけじゃねぇか!?別に確定で死ぬわけじゃない、数分つなぐだけならリミッターにも影響しない!いいだろ!?フラクタル!!」


 落ち着いた様子で落ち着かせようとするフラクタルに対し、レガリアは焦り一方になる。


「レガリア、残念だがあれのリミッターはもう上限値だ。次使ったら1秒でも死ぬ。あんな状態で使い続けるなんて、それこそ君のお兄さんみたいだ。

 大丈夫、一応あっち側の対象への事前準備もあるんだ、最悪の場合はゲートから直接舞離火ちゃんたちのところに落とせばいい」


「あいつと同じか…それだけはなりたくないが、あいつらを見捨てるわけにもいかねぇ、前言ってたろ、《プロジェクションカード》だけを投影する装置、あれよこせ」


 フラクタルの言葉で少し落ち着いたのか、さっきよりは落ち着いた雰囲気で、フラクタルに言葉を返した。


「これ以上は、止められなさそうだね。あまり近づかないでよ、遠距離主体にしてくれると助かるよ、精神的負担が少なくて済む」


「はいはい」


そういってレガリアはフラクタルのいる部屋を後にした。


―———??????—————


「そろそろ飽きてきたな、この景色も。ほら見えてきたでこっから先は、魔法装甲かけや、何があってもおかしくないで」


 深い黒が支配する空間の中を歩きながら、堺が怜に話しかける。


「え、あ…はい、いますぐかけます。というかこの道って、どういう原理なんですか?気づいたら落ちて到着なんてことないですよね…」


「原理はしらんからなぁ…頼んだら作れるって言ってたし、もしかしたら落ちるかもやけど、魔法装甲あったら死にはせんよ…いや、死ぬかもな」


さきほどまで半笑いで話していた堺が突然雰囲気を変え、まじめな声で唐突に死を感じさせる。

 が、それがなぜかは怜も感じ取っていた。


「魔素が吸い込まれとる。こんなん感じたことない。それだけじゃない。《白鯨》の反応もあるけどそれ以上のこの反応…レベル5でも感じたことない!、そもそも出雲君が《白鯨》を出すってことは…やばいってことか」


 堺は一人で脳内に思考を巡らせ、黒い空間の中、独り言を綴る。そして、数秒の沈黙が続いた後、口を開く。


「緊急事態や、今すぐ全部全開にし、じゃないとほんまに、死ぬと思うで」







 




 


 


 


 


 


 






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イセカイ!!!!! 狂酔 文架 @amenotori

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