第九話「世界の名残を纏う獣」
「で?何があったの?」
3人は、世界獣の討伐に向けて、森の中を走っていた。
「俺たちもわからねぇ、レガリアさんがやってくれた時みたいにだ。急に現れたんだよ!!さっきまで魔力の少しも感じさせなかったくせに」
焦りと怒りが混じった言葉を、淳史は抑えながら話した。
「敵は一匹ですか?大きさと耐久度は?攻撃手段はなんですか?」
向かう途中、3人のなかで一番冷静であった出雲は、戦いの戦法を決めるため、淳史に質問を行うが、淳史は険しい顔をしながらこう答えた。
「わからねぇ、攻撃も、耐久度も、俺の攻撃が当たってるのに、よろけるそぶりのひとつもねぇ、強いて言えばかすり傷が残る程度だ。敵はあんたの結界のおかげであの一匹だ。でも…ありゃ規格外すぎる。」
そういってこぶしをんぎりながら悔しそうに言う。
「そうですか。でもまだ負けたわけじゃありません。死亡者は聞きません。だから、いまはただ僕の質問に答えてください。成長の具合は?人型?獣型?」
そう出雲が言葉を続けると、淳史は何かを言いたげだった口を噛み殺して返答する。
「見かけは獣型だが、移動は二足歩行だ。オーガの上位互換ってほど、バランスも良くねぇだろうが、ありゃどっちも噛んでるだろうな。」
そう淳史が言うと、出雲の顔色が変わり、淳史と舞離火に向かって言葉を放つ。
「今すぐ魔法を最大展開してください!!結界が破られました!来ます!」
その発言と同時に3人は地震にできる限りの魔法の最大展開をおこなう。3人とも、魔法の無詠唱を可能としており、掛け声と同時に魔法を展開した3人は目の前に現れた獣の初手を防ぐ。
が、その登場とともに、宙には、ほかのプレイヤーが浮かび上がる。
3人はその光景を横目に、死人がもう何人も出てしまったことを悟る。
三人ともその事実噛みしめ、悔むことはせず、戦闘に戻る。
「おっさん?こいつであってるわね?あってなくても叩き潰すけど!」
登場した獣の初手を防いだ舞離火の魔法による武装は、スキルを使わずに剣と体で合計10に至る神業であった。
10の《魔力装甲》、それは、B級のレイドボスを一撃で倒す際に使ったスキルを除いた魔法の数と変わらないものだった。
その攻撃がいままさに、初撃を防いだ舞離火から目の前に現れた世界獣に向けて発せられる。
舞離火の持てるスキルを使わないうえでの最大火力、閃光には届かないものの、音速のごとき一撃が、獣の体に放たれた。
が、3人はそこでありえないものを目にすることになる。
舞離火の攻撃を受けた世界獣は、よろけるそぶりをみせず、まるで痛くもかゆくもないといわんばかりの反応をする。
次の瞬間、獣の攻撃が舞離火に襲い掛かろうとするが、その攻撃を避けるさなか、3人の思考は重なっていた。
「―—————こいつ、魔力装甲を、つかっている!!!——————」
その事実は、3人の頭の中で重なった。が、しかし、その事実におびえる時間も獣は許さず、攻撃をした舞離火と、残る2人を確認した獣は、3人それぞれに向けて、攻撃を行う。
出雲と舞離火の二人はなんとかしのいだものの1ランク低い淳史はその攻撃を受けてしまう。
魔力装甲のついた獣の拳から発せられる一撃は、淳史も魔力装甲をつけているとはいえ、淳史に反撃する余裕を与えない。
「淳史さん!こいつの攻撃は僕たちが引き受けます。今は回復と今生きているほかのプレイヤーの確認に専念してください。すみませんが今の状況じゃ、あなたはこいつに傷を与えられそうにない。」
出雲が獣攻撃を避けながらそういうと、淳史は悔しそうな顔をし、何回言いたげな表情をするが、声を殺して空に飛び去る。
「出雲、さっきおっさんは自分の魔法でかすり傷がついた程度って言ってたわよね?」
攻撃をすることをやめ、展開していた魔力装甲の一部を、魔力装甲 《黄》に変換していた舞離火は、どこか気に食わない表情をして、出雲に問いかける。
「ええ、黒井さんはそういっていましたが、さっきの攻撃を見た感じ、それは魔力装甲がないときの話でしょうね」
「やっぱりね、これでつまりおっさんの情報が全部無駄になったてことね。」
「僕が遠距離で援護をおこないます。伊瀬さんは近距離と陽動をお願いします。
スキル…は、出し惜しみしても意味ないでしょうね」
そういうと同時に舞離火はうなづいて、空に浮かび上がりスキルカードを切った。出雲はそれと同時に距離を取って木の枝に飛び乗り、弓を構える。
「《スキル・再現》」
その発動と同時に、舞離火の魔法は一度とかれ、同じ魔法が《再現》により上書きされる。が、ほんの10秒にも満たない魔法が解かれる瞬間を、獣は逃さなかった。
獣の拳が宙に浮かぶ舞離火の体に向かって迫りくる。舞離火は距離を取ろうとしたが、その体には魔法の装甲はない。生身と手に持った日本の剣による防御を覚悟をした瞬間、目の前に一本の弓矢と共に巨大な5枚の防壁が現れる。
「油断禁物!死にますよ」
弓の主であり、生身の舞離火を獣から結界の応用で守った出雲は、舞離火n注意をしながら、次の弾を発射しようと獣の姿を目にいれる。
その瞬間、目の前にあらわれた魔法陣から、10発ほどの岩の弾丸が出雲にめがけて発射される。
目の前に結界を張ろうとしたが、弾の装填が間に合わず、全力での防壁が作れないと判断した出雲は、札を取り出し一枚の防壁でふさごうとする。
が、次の瞬間目の前でその岩の弾丸はすべて粉々にされる。
「あんたもね」
そういうと、自身と剣に10の魔法装甲を展開と同時に、その弾丸をすべてさばききった舞離火は次の攻撃を仕掛ける。
20の魔法が重なった攻撃は、獣に確かなダメージを与え、一部の魔力装甲を破るに至る。
その隙を出雲は逃さず、獣が魔力装甲を上書きする前に《九事象》の仕組まれた一撃を放つ。
「《
その攻撃は魔力装甲を失った、獣を確かに射貫き、その炎はほかの魔力装甲すらも内側から破った。
そこにさらに舞離火がそこに追撃を与える。
獣の攻撃を避けながらの二人の連携は、一撃一撃が大ダメージとはいかないものの、確かに獣にダメージを与えていった。
「そろそろ、魔力が半分ね、あんたは?」
「僕はあと3分の一くらいですかね、魔力の量はBランクですから。そろそろスキル使いますか?」
二人は連携にも慣れてきたのか、話しながら攻撃を続ける。
「ていうか、おっさん。大丈夫なの?見回り、ていうかさっき割れたのって何の結界?」
「3枚あるうちのA級を防ぐ結界です。ほかは、B級とかの雑魚処理用です。割れてはいませんが時間の問題でしょうね。
もしかしたら淳史さんたちがそれに対するほかの獣を応戦しているかですね。どっちにしろ今は僕たち二人です。さっさと終わらせましょう。これ以上淳史さんたちを見過ごせない。」
そう出雲が言うと、二人は息を合わせてスキルを一つずつ使用する。
「《スキル・インパクト強化》」
先にスキルを使用したのは舞離火だった。
が、《再現》の効果はとうの昔に切れている。閃光には及ばない音速の攻撃に、インパクトへの強化が起こる。
が、舞離火は一撃では終わらない、出雲が《リピート》を使うと予想し、10秒以内に叩き込める最高回数を、獣の攻撃を避けながら入れる。
そして、10秒後、出雲は舞離火の読み通りに、スキルを切る。
「《スキル・リピート》」
その発動により、舞離火の行った連撃が繰り返される。
音速の連撃は獣に犯行の隙を与えない、さらにそこに舞離火がスキルを切ろうとする。
「《スキル・再撃》」
その一撃はさらに舞離火の連撃を繰り返すかと思われた。が、リピートが終わり、舞離火が《再撃》を放つまでの1秒にも満たない時間。その隙ともとらえられないような時を獣は満たさなかった。
獣の咆哮と同時に、獣の周りに展開された魔法陣は、獣に向けて放たれる。
その異様な光景をみて、出雲は驚きを隠せなかった。
「魔法陣を…纏ってる?…」
次の瞬間、魔法陣を纏った獣は、赤いオーラを纏うが、その雰囲気は、魔法装甲とは違う者だと、二人に実感させる。
魔法陣を纏った獣は、二人に向けて、魔法を使わない純粋な魔力の放出をおこなう。
魔法陣を纏った獣を見て自分についた魔法を《黄》へとできる限り変換した舞離火はその攻撃をぎりぎりで防ぐ。
が結界の防壁が遅れた出雲は、その攻撃をもろに受け、木々を貫く勢いで吹き飛ばされる。
「出雲!?」
瞬間、その光景を目にした舞離火は、出雲を呼びかけるが、その隙を獣は逃さず、純粋な魔力を纏った巨大な拳が、舞離火の魔法装甲を突き破り、その肉体を吹き飛ばす。
獣から受けた一撃でその肉体に重大なダメージを負った二人に、さらに獣が一撃を放つ。
次は純粋な魔力の放出ではなく、雷の放出へと昇華された一撃は二人の命を刈り取るかと思われた次の瞬間。出雲が一枚の札を取り出し、血を吐きながら言葉を並べる。
「《式印転写・飲鯨》」
瞬間、出雲の手の甲に転写された九本の線で描かれた格子状の印 《ドーマン》に、出雲は自分からあふれる血で、浮かび上がった印の一本をなぞる。
「《九式護獣・臨海ノ印》」
二人に雷の攻撃が当たる瞬間、出雲によって呼び出された一匹の鯨が、二人を雷の砲撃から救う。
木々の隙間を覆うその巨体は、触れることはできず、眺めることしかできない。が、すべてを飲み込むその鯨は、大海を纏いながら現れる。
「あんた…さいっしょからっ使いなさいよ」
血を吐き出しながら言葉を放つ舞離火にそういわれた出雲は、血だらけの体を起こしながら言葉を口に出した。
「5分間、持たせます」
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