第八話「イセカイへの道」
―——仮想世界———
仮想世界内の時間で1時間ほどたった頃、少し仮眠をとっていた怜は堺に起こされた。
「ほら、はよ起きやー、ほらほら」
怜がまだ少し眠い目をこすって開けると、目の前には、楽しそうに自分のほっぺたをぺちぺちと堺がたたいている光景が映し出される。
「なに…してるんですか?…」
眠い目をこすりながら怜がそうやって堺に問いかける。
「なにって。起こしてあげてたんやん」
悪びれもせず、まじめな顔で細い目を少し開きながら言う堺を横目に、怜はから画を起こしてほぐす。
「よし、じゃあ今回の試験の説明を始める!!ってかっこつけたいけど別にそんな気分でもないし、はよしたいからこっち来てや」
そういって堺が盛り上がったり下がったりをしながら怜を呼びかける。
「よし、ほなじゃあ説明するで、今回の敵はレベル5の世界に生息してる《オーガ》っていう世界獣や。」
そう切り出して、堺は淡々と世界獣の説明を始めた。
「そもそも世界獣はその強さがあがるにつれて人型化か巨大化するかのどっちかで、その成長具合によって、魔法主体か物理っていうか脳筋みたいな攻撃かわかるねんけど、こいつはそれが両方ともある程度高い、まぁ要するに人間の単純強化版や。A級のなかやと弱いほうやけど普通に強いで、まぁまぁ楽しんでや」
そういうと堺はタブレットを手に持ち、怜に声をかける。
「よし、ほないくで。いけるか?」
「いけます」
堺の問いかけに答えた怜の表情と声色は先ほどまで寝ぼけていたとはおもえないほどしっかりしており、その返答とともに《オーガ》は召喚される。
空気より生成された《オーガ》は、怜の身長が約170ほどだとすれば、その3倍はあり、それに加え筋肉の量、手に持った棍棒、額についたその角が怜にすこしの緊張感を与える。が、怜はすぐさま魔法の展開を始める。
「《世界が空に散らばりし禁書の影よ、その断片をもって我が両脚に魔装の加速を与えよ。魔力装甲・青》」
バッグステップにより《オーガ》の攻撃を振り切りながら放った、その一言ともに、怜の脚には魔力の装甲がまとわりつき、さらにその動きは加速する。
が、相手は《オーガ》その攻撃手段は近接だけではない。
怜は次の装甲を取り付けるためにさらに距離を取ろうと後ずさりをしようとすると、次の瞬間、《オーガ》は手に持った棍棒を地面に打ち付けた。
そのひと振りにより地面に亀裂が発生し、怜が後退りをおこなおうとした場所から岩のとげが飛び出る。
間一髪でよけたものの、後ずさりができなかった怜の目の前には棍棒を構えた《オーガ》が立ちはだかる。
魔法と近接、その両方の攻撃を兼ね備えた《オーガ》のレベルは、さきほどまでの獣とは一線を画し、その強さをいかんなく発揮する。
しかし、怜は再度目の前に立ちはだかった《オーガ》をみて、剣でその攻撃を防ぐ選択肢をとり、防御の構えをとり詠唱を重ねる。
「《世界が空に散らばりし禁書の影よ、その断片をもって我が全身に鉄壁の装甲を与えよ。魔力装甲・黄》」
その詠唱は、怜に棍棒がぶち当たるわずか、数センチ先で完了し、衝撃のタイミングで怜には魔力の装甲が重なる。
《オーガ》の一撃を耐え抜いたその装甲は、逆に攻撃をおこなった《オーガ》に一瞬の隙を作らせ、その隙を怜は見逃さない。
《赤》の詠唱は不可能と判断した怜は、そのままの状態で《オーガ》に向けて剣を振りかざす。
その一撃は確かに《オーガ》に傷を与えるが、あくまで速さと元の剣の性能だけの攻撃であるその一撃は、傷をつけることしかできず、《オーガ》をひるませるには至らない。
攻撃直後に反撃されないために距離をとった怜は、《オーガ》の次の攻撃を警戒し、詠唱をしなかった。が、その判断は裏目に出ることとなる。
傷をつけられたことにより怒りを覚えた《オーガ》は、棍棒を空へとかざし怒りにまみれた雄たけびを上げる。
次の瞬間、天にかざされた棍棒に雷が降り、それを纏った棍棒が出来上がる。
それに加え、降りかかると同時に棍棒から放出された
怜は距離を取りながら剣でその
もはや詠唱の時間はないと判断した怜はまたもや剣で受けようとするが、雷を弾いたばかりの剣は《オーガ》の攻撃に間に合わない。
振り下ろされる棍棒を、ただ眺めることしかできないと思われた瞬間、怜はとっさの判断で頭の中で詠唱をおこなう。
刹那の中、頭の中で鮮明に描かれた詠唱と、その発動により起こる事象は、飼い犬である《禁書》に明確に伝わり、《魔力装甲・黄》は発動する。
その瞬間、怜に魔力の装甲もう一枚重なり、《オーガ》の一撃をもう一度防ぐ。
それに加え、さきほどと同様、防がれたことにより隙ができた《オーガ》に向けて、怜は一かバチか、無詠唱による魔法の展開と変換をおこなう。
「第一魔法 《魔力装甲・赤》
第二魔法 《魔剣装甲・赤》」
その発動と同時に怜を纏っていた黄色の魔力装甲は赤色へと変貌し、剣にも赤色の魔力がまとわりつく。
加速と二重の《赤》により浴びせられる一撃は、レベル5とは言えど、レイドボスではない《オーガ》を、スキルカードを使わずとも一撃で殺すに至る。
「た、倒した…?倒せた…の?」
息を切らしながらも、未だ自分がやり遂げたことに実感がわかない怜に、堺が言葉をかけている。
「ほんまよぉやるわ、あそこの無詠唱、できてなかったら強制終了待ったなしやで。
でもほんますごいわ、おめでとう。これで君も行けるわ、舞離火ちゃんのもとに」
拍手をしながら怜をほめる堺から発せられたその一言に、怜は食いつく。
「いけるんですか!?舞離火のもとに」
息を切らしていたことすら忘れさせるほどの勢いとともに目を輝かせていた。
それもそのはず、この世界の中ではたった数時間の修業だったとは言え、外では二日は経過しており、怜にとってははやく舞離火に会いたかったであろう。
「よし、ほんならさっそくで悪いけどそろそろ行こか。あ、それここ置いときや、どうせ出たら消えんねんから」
堺は怜が手に持った剣を指さしながらそういうと、怜は慌てて剣を地面に置いた。
「あ、あのこれは…まだ使いますか?」
そういって自分の腕にまいたデバイスを指しながら怜が堺に問いかける。
「あー、試験用の《ラプラスギア》使ってたんやな、そうやそうや。んーあっちに変わりはあるけど一応持っていき」
「あ、あと。僕はその服、着なくていいんですか?」
怜はそういって、堺の着た狩衣を指さしながら聞くと、堺は笑いながら答えた。
「ハハハッ、これは僕が好きで着てるだけやし、君には特別な奴が用意してあるから」
堺がそう答えると、怜は目を輝かせながらうなづいた。
そして二人は広大な草原の描かれた仮世界を後にし、
―——
怜が《オーガ》との戦闘を終えたころ、舞離火や出雲は数時間ごとに休憩を取りながらの見回りや、結界の展開などで出た疲れを、テントの中で癒していた。
そんな中にテントの中に、森の中から聞こえる悲鳴が響き渡る。
「「なに!?」」
二人とも同じタイミングでその悲鳴を聞き取り、同じタイミングで反応する。
するとその時、魔法により加速したまま、傷だらけの淳史がテントの中に飛び込み、二人に言葉を放った。
「あれは、レイド級…いや、それ以上だ…寄せ集めの俺らじゃかなわねぇ…頼む。今すぐ向かってくれ」
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