第七話「修行・四/狩りの後」
出雲と舞離火の戦闘もいろいろあったが一息ついたころ、怜は魔物達との連戦を続けていた。
「世界が空に散らばりし禁書の影よ、その断片をもって我がからだ…に…はぁ…はぁ、もう死んで…ますか…」
空気に消えゆくハイゴブリンの死骸を前に、怜は息を切らしながらも、未だ魔法を重ね身体に強化を与えようとしていた。が、気づけば目の前にいた獣たちは死骸となっており、展開を途中でやめた。
戦いのあと、地面に倒れこみそうになるも、怜は自分が手にしていた剣を地面に突き刺し、それにもたれかかることで、立ち続けた。
怜はこの世界においての数時間の間に、堺がタブレットを使って出した世界獣との連戦を経て、怜はいまやほかのBランクプレイヤーと比べてそん色ないほどとなっていた。
使う魔術も、《身体強化》から《魔力装甲》へと進化し、基本3色魔法である赤・青・黄の習得と身体への最大3つの魔法の重ね掛け。そこに加えて《魔剣装甲》の習得をおこない、合計5つの魔法の重ね掛けに成功していた。
それははるかに堺の才能を上回るものであり、堺は怜が魔法を使い戦う姿をみて、ただひとり驚き、そして感心していた。
「すごいな、怜君。この速さで重ね掛けやって、まさかの魔法破綻なし、才能だけで言ったら正直、舞離火ちゃんと遜色ないで」
堺は一度タブレットから獣を出すのをやめ、怜に言葉をかけた。
「そう…なんですか…?」
堺がそういっても、怜は普通というものを見たことがなく、自分が舞離火と同じほどの才能を持っているということが実感できずに、自信なさげに問い直すことしかなかったが、怜の才能は実際すさまじいものだった。
そもそも、怜のジョブは、魔法使いと最初に堺は形容したものの、実際は《魔闘師》のほうが近く、《炎弾》などの魔法を使うことはまずない。
《魔闘師》とは、《身体強化》や《魔法装甲》による己への強化により近接戦闘を得意とするジョブであり、並みの《魔闘師》で大体、身体と剣、あわせて3つの魔法の重ね掛けでBランクといわれており、よって合計5つの魔法展開を可能とする怜もなかなかに強いものだった。
まず、魔法の重ね掛けとは、さきほど堺が言ったように、魔法破綻という危険性を生む行為である。
魔法破綻とは、魔法というものへの思考によって生まれる脳のキャパオーバーであり、その条件は大きく分けて二つ。
魔法の種類と対象である。
魔法使用の際、重ね掛けをするなら、魔法の種類分けは必須であり、仮に身体強化で行うとして、赤と青を同時するとき、二つを身体強化の同じ魔法と脳の中で扱えば魔法は破綻する。
それと同様、赤の2重使用も同じ部位への重ね掛けは不可能であり、全身×全身などの重ね掛けは不可能であり、全身×両腕や、右腕×左腕などの部分わけが必須。である。
そのため、重ね掛けは《魔闘師》の難所と呼ばれており、それをこの短時間で乗り越えることのできた怜の素質は素晴らしいものだった。
「さ、最後の試練や。と言いたいところやけど、まずはこれ飲んで休み、そろそろ魔力が尽きるやろ。あんなに魔法連発してんねん、ある方がおかしい」
少しの間の後、そういって堺が魔力瓶をなげながら声をかけると、怜は自分の魔力を確認した。
「あ、あの…堺さん。まだ半分くらい残ってるんですけど…」
少し恐る恐るそういいながら怜は堺にその事実を伝えると、堺はいままで怜に見せたことのない顔で驚き、こういった。
「は…?アホなんちゃうん。魔力があと半分?どうやったらそうなんねん…ま、まぁええわ。一回休み、さすがにきついやろ。もう10回はやっとる」
怜はその反応を見て、少し笑いながら、草原の台地に寝そべった。
―——イセカイ 推定世界レベル5
出雲と舞離火、それに加え大砲を担いだ男はテントに向けて森の中を歩いいていた。
「それにしても、二人であの群れをやったのかい?」
3人で森の中を歩きながら、二人に男が問いかけると、もうしゃべる気力もない二人はうなづくことしかできない。
「ハハッ、さすがだな。舞姫の方はわかるとして、兄ちゃんもやるんだな。」
そういって問いかけられた出雲は、少し体力も回復してきたのか、少しだけ息を切らしながら口を開く。
「僕ですか…?僕は南 出雲 一応Bランクです」
出雲がそういうと、男は少し驚いた顔をして再度問いなおす。
「まじかよ、遠目に見ても兄ちゃんのあの狙撃、ただの弓じゃねぇ。Aでも十分いける実力だろ。」
「ハハハ、師匠が毎日のようにレベル一の世界で僕と模擬戦とか言って、楽しむことをやめてくれれば、今頃Aだったかもしれませんね…」
怜がどこか呆れながらそういうと、舞離火がどこが納得したような顔で会話に口をはさむ。
「なるほどねぇ、私もあんたがAじゃないの変だと思ってたのよ。まさかそんな理由だったなんてね、私が言えたことじゃないけど、堺も相当な戦闘馬鹿ね。」
舞離火がそういって会話に口を出すと、男は何かに気が付いたように二人に問いかける。
「その堺ってのはこの兄ちゃんの師匠かい?知ってるってことは、二人にはもともと面識があったんだな」
「顔を合わせたことが何度かあるって、だけだけどね。ていうか、あんた反応薄いけど、こいつの師匠の出雲って、あの狩衣よ?ていうかこいつも今狩衣来てるし」
問いかけに答えながら、舞離火が出雲のことを‘‘あの狩衣‘‘と示唆すると、何かに気が付き驚いたような顔をしたが、次には納得したような顔をしていた。
「あぁ、なるほど。この兄ちゃんの師匠は‘‘あの狩衣‘‘ね…どうりで強いわけだ。」
そういって話を続けていると、出雲がなにかを忘れていたかのような声をあげ、男に問いかける。
「あ…そういえば、あなたはどなた…なんですか?」
「おっと、すまねぇな。わりぃわりぃ。俺は黒威
忘れていたことを軽く謝りながら淳史が自己紹介をすると、舞離火が納得した顔で口を開く。
「なるほどねぇ、だから魔法が飛んでくるわけね、それんしてもあんたおもしろい杖つかうわねぇ」
「なに、こちのほうが展開の思考が楽なだけさ。少し前まで軍にいたもんでね」
その一言を聞いて舞離火と出雲はどこか納得したような顔をしていると、目の前にテントが見えてくる。
「さ、じゃあ俺は代わりに見守りに行ってくるよ、ほかのやつも大体出てると思うから、お前らは安心して寝とけ」
そういって、男は二人をテントに残して森の中へと潜り込んだ。
残された二人も相当きつかったのか、さすがにベットに潜り込みそのまま寝てしまった。
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