第六話「弓と双剣・二/修行・三」
地面に落ちた剣をぎこちなく構えた怜は、手に握った剣を、まるで刀のように腰に構える。
——スライムには物理体制があるから…まずは魔法の詠唱だよな…多分
怜は頭の中で先ほどの堺の助言を思い出しながら、剣を構えた状態で詠唱を始める。
「《世界が空に散らばりし禁書の影よ、その断片をもって我がからだ…に…っわ!!」
怜が詠唱をしようとするとスライムはその隙を逃さずにまたもや弱弱しい突進をおこなう。
いくら弱弱しいといえども怜は戦闘未経験な上に、魔法の詠唱もさきほどはじめたばかり、隙を作らない方が難しいであろう。
そんな怜を見て、堺が横からアドバイスを入れる。
「まずは詠唱や、スライムの攻撃は耐えや。まぁ、がんばり」
他人事のなように腕を胸の前で組んで薄く笑いながらそういって助言する堺を横目に、怜は剣を一度地面に置くことを決意し、魔法の詠唱に集中した。
「《世界が空に散らばりし禁書の影よ、その断片をもって我が身体に剛力をあたえよ。身体強化・赤》」
再度始まる詠唱、そこにできる大きな隙をスライムは逃がさなかったが、怜はスタイムの突進前にできる溜めをみつけ、そこで距離を取りながら詠唱することで、なるべく脳のリソースを詠唱に回しながら、スライムの攻撃を避けた。
この一連の動作は堺も予想していなかったようで、怜が二つの行動を一緒にやりのけたのをみて、にやけている。
そんなことは知らず、怜は戦闘中の魔法という第一関門を突破したことで、一人胸を高鳴らせていた。
身にまとう魔力の感覚、空が手助けし、自分を後押ししてくれるような感覚が怜の身に現れる。
魔力を手に入れたことにより、魔力がみなぎったその身は、怜に全能感に近い何かを与え、一時的なハイへと至る。よって怜は、剣を取りに走ることはせず、自分の腕をスライムへと走らせ、こぶしを振りぬく。
素手とは言え、魔法のかかった一撃、世界獣の端くれとはいえどスライム。
よってスライムは逃げることも間に合わず、怜の一撃によって消滅する。
「できた!!できましたよ堺さん!!」
スライムを倒したことと、魔法の発動ができたことにより、喜びがあふれたのか、満面の笑みで報告をする怜を、堺はほめながらも次なる試練を出す。
「ええやん。簡単なこととは言っても二つの行動の同時進行ができると思わんかったわ。この感じやともうちょっと強いのでもいけそうやん。ほらっ次はこいつ、ゴブリンや」
そういうと、堺はタブレットをタップし、貧弱な肉体と弓矢を手にしたゴブリンが怜の前に現れた。
―——イセカイ 推定世界レベル5
怜と堺が修行により、魔法の発動を定着させていたころ、出雲と舞離火は世界獣の群れと戦っていた。
「《
舞離火が飛び回り獣を一掃している間、出雲は木の枝を飛び回りながら弓矢に結界を装填していた。
飛び回りながら出雲は、一つの掌印を結ぶ。右の指を左の指の上にし、十指外に交え縛する構えを取ったその時、結界には一つの事象が封じられる。
「射抜け《皆炎結界》」
出雲の一言と共に弾かれた矢は、木々を通り抜け舞離火の取りこぼした獣を焼き尽くす。
結界から放たれたことにより発動した皆炎は対象である獣を焼き尽くしたあと、その周りに飛び回る獣すらも逃さない。
「あんた、やるじゃない。ていうか、式神は使わないの?」
飛び回りながら出雲の技を見てやる気になったのか、さっきよりも速くなったそのスピードを持って獣を殺しながら、舞離火が出雲に問いかける。
そもそも、なぜ舞離火は式神の名を出したのか。
それはラプラスに置いて、「陰陽師」というジョブの技は大きく二つに分類されるからである。
一つは《九事象》という。九字という《臨兵闘者 皆陣列前行》を基本とした、陰陽道なので掌印や、札により使われた護身の呪文に炎や雷などの事象を混ぜ合わせた九つの事象というものであり。
さきほど出雲が結界に封じ込めて打ったのもその一つ《皆炎》である。
そして陰陽師のもう一つの技、それは《九式護獣》という式神である。
《九式護獣》とは、人によって選ばれた適正な式神に九事象の能力を付与する式神術のである。
そのうえで、舞離火は出雲の師匠である堺との模擬戦を何度かした中で堺が式神を使っていたため、弟子である出雲も式神を使うものと思っていたのである。
そう言って舞離火に問いかけられた出雲は、弓を次々と放ちながら答える。
「陰陽師にも適正がいるんですよ、舞離火さんの魔闘師も、適正の必要な魔法あるでしょ?それと同じです。式神は適性がいるんです。」
次々と事象を放ちながら出雲は淡々と陰陽師について説明する。
「まぁ、ぶっちゃけた話、僕には式神の適性が一つしかなかったんです。だから使わない戦い方を極めた、その末に至ったのがこれですよ。」
そうやって説明をする出雲の話を聞きながら、舞離火はふと、さきほど出雲と出会った際、結界を張っていると出雲が言っていたことを思い出す。
「そう言えばさっき結界って言ってたけど?あんた結界師じゃないわよね、でも今も結界使ってるし…」
「それはあれですよ、身体強化の基本3色はプレイヤー使えるのと同様。人気がないから知られてないのかわかんないですけど、一応結界術も基本数個程度ならだれでも噛めるんですよ」
そう言って獣の群れを殺し周りなが殺戮を行う2人は、側から見ればどちらが敵かわからないほどであった。
その強さと言えば結界を張っていた途中ということもあって数百体ほどいた獣達も、残り数匹と個々が大きいものの、両手で数えられる程だった。
がそれと同時につれ2人の魔力もそこに近づく。
そもそも、2人とも戦闘前の時点で魔力は半分ほどであり、それに加え、数百体の獣の討伐を行ったあめ、残る魔力は5分の2ほどであった。
「そろそろ魔力がやばいわね…あんたは?」
自分の魔力が残り少ないことに気づいて舞離火が出雲に問いかける。
「僕もですね…そろそろってところです。
スキル1枚…2枚なら、僕は使えますけど」
「そうね…私も2枚ならってところね。正直残りのやつくらいなら…あーもう!!考えるだけ無駄ね、行くわよ!」
舞離火と出雲は少しスキルカードの消費を渋っていたものの、魔力とスキルカードのクールタイムを考慮して2人はスキルを使うことを決める。
舞離火と出雲は自分にかけていた魔法の数を減らし、先手は以外にも出雲がデバイスにカードを切った。
「《スキル・伝染》」
その発動とともに、出雲はさっきとは違い結界に封じずに掌印を結び、《陣雷》の矢を放つ。
スキル、《伝染》その効力は、行った技の対象に当たった攻撃で起きた事象の伝染。
つまりは、aに矢が刺さったという事象が起きれば、周囲のb.c.dにも刺さったという事象が伝染するという能力である。
また、元の対象の数が多ければ多いほど伝染は拡大する。
そこに出雲が与えた事象は《陣雷》である。
それはつまり、陣を成す豪雷、放たれた事象の拡大を行う《伝染》とは最大限の効力を発揮し、残りの獣すべてに豪雷を浴びせるに至る。
「へぇー、いいカード持ってるじゃん、それじゃ私も」
出雲の放った一撃を見て昂った舞離火は2枚のカードを一気に切る。
「《スキル・破弾》 《スキル・ドライブ》」
その2枚の効力により、放たれた無数の漆黒の渦と、ドライブによって加速された舞離火自身による攻撃の嵐により、獣達は身動きもとれないほどとなる。
それを待っていた出雲がそこに最後の一撃を与える。
「《スキル・リピート》」
リピート、その効力は対象に与えられた発動前10秒以内の攻撃の再発動であり、与えた攻撃の再発動である《再撃》とは違い、別のプレイヤーの与えた攻撃すら、再発動する。
よって、放たれた無数のスキルは獣達を焼き尽くした、ただ1匹を除いて。
その事実に気が付かなかった2人は、自分にかかった全ての魔法を解き、木の根元に座り込む。
「はぁ〜、終わったわね」
舞離火疲れきった声でため息を出し、下を向いたまま顔をあげそうにない。
「結界…はもう無理そうですね、とりあえず魔力の回復が最優先ですか」
疲れきった状態でなお、一瞬与えられた使命である結界の展開を行おうとしたが、さすがに無理だと判断したのか、こちらも下を向いたまま顔をあげそうにない。
2人とも下を向いたまま、会話も無く時間が過ぎる。
2人の纏う空気は異質であり、生き残っていた獣以外の世界獣は近づくどころか、その方向を見ることすらしない。
が、しかし、ただ1匹生き残った獣はそれを隙だと判断し、静かにその体を動かしていた。
先ほどレガリアが焼き尽くした獣や、別のイセカイで舞離火が単独討伐を行った獣に比べれば小さいが、それであっても獣は獣ら身長2メートルですら希少な人類には比べ物にもならない獣がせまる。
そんなことを疲れきった2人は知らず、せまる獣とは裏腹にもはや眠りにすらつこうとする勢いの中、獣が飛びかかる。
飛びかかる獣の音は、
が、無詠唱による身体強化の二重展開を行わない出雲は逃げ切る術がなかった。とっさの思いで展開した身体強化では獣の攻撃範囲から逃れることができなかった。
舞離火は潰される出雲をただ見るわけにはいかないと剣を構えて獣に飛びかかろうとする。
が、飛びかかる間際、聞き覚えのある男の声が聞こえる。
「《魔弾装填・炎弾》」
どこからか聞こえたその声と共に、舞離火のギリギリ目の前を通り抜け、放たれた砲撃は残り少ない命で動いていた獣を仕留める。
「「助かった…?」」
目の前を通り過ぎた炎の砲撃に頭の整理が追いつかない2人はそう言って同じ言葉を言う。
するとそこに1人の人間の足音が聞こえる。
2人はその足音の方向を向くと、そこには大砲に近い球のないバズーカを担いだ男が立っていた。
「リタイアできなくたってここはイセカイでっせ?お二人さん」
そう言って2人の元に駆け寄る男は、テントで舞離火が瓶に入った回復薬を渡した男だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます