第五話「弓と双剣/修行・二」

―——イセカイ 推定世界レベル5 秘匿森林世界アトランティス———


 怜と堺が仮想世界にて修行を始めているのと同時刻、舞離火とレガリアたちははイセカイに迷い込んでしまった人々を魔物の脅威から退けていた。


「ったく、いつまで沸くのよ、この世界獣。さすがに長期戦になると魔力が持たないわ」


 舞離火は空を滑空しながら愚痴を吐き、木々の隙間を抜けて地面に降りようとしていた。


「休憩もらうから、ほかの人頼める?」


 地面に降りると、対魔物用にさきほどのテントの中から集められたプレイヤーの休憩場所である、別のテントの中に入りながら舞離火は見回りの交代を希望する。


 舞離火が呼びかけると、銃というより大砲に近いバズーカのようなものを持った褐色肌の屈強な男が立ち上がる。


「よし、俺が行こう。悪いな嬢ちゃん、一人で任せちまって」


「別にいいわよ、私が一番強いんだから、私が一番負担を抱えるのは当然。それよちあんた、大丈夫なの?傷がまだ残ってるけど。」


 舞離火がそういうと、軍服のような装備を纏った、屈強な男は体のいたるところに残る傷跡を確認しながら言葉を返す。


「あぁ、仕方ねぇ。もともと寄せ集めで作った戦線だ。回復魔術師の数にも期待できない。これくらいなら、まぁいけるだろ」


 そういって、少し小刻みに体を震わせながら無理やりに立ち上がろうとする男を見て、舞離火が口を開く。


「だめよ、その状態で戦って死なれたら私のプライドが許さないわ。

 これ飲んでまだ休んでなさい。あと一時間は私が持たせるわ」


 舞離火はそういうと、デバイスから顕現させた瓶を男に投げ、男に文句も言わせない速さで、空へと飛び立った。


「ハハッ、ったく。不甲斐ねぇな、俺も。」


 男はそう呆れたように呟きながら瓶の中身を飲み、天井を見ながらベットに倒れこんだ。



「本当に減らないわね、この世界レベル5はあるでしょ。この強くないけど数が少ない感じ、やりにくいわ。

 魔力はあと3分の1って感じね、この強さだと重ね掛けも3個でいいかな」


 そういいながら木々の隙間を飛び回り、舞離火は見つけた世界獣を片っ端から殺していった。


「これで何匹目?もう結構やったと思うんだけど、何匹沸くのよ、特にこの虫うざいのよね」


 飛び回って30分ほどたったころ、そういって宙にとどまりながら体を休め、周りを飛ぶ《シャープシカーダ》という先のレガリアの戦闘で使われた昆虫のような獣を軽々と殺す。


そうしていると、それまで騒音の一つもしなかった森の中に、木々が倒れる音が響き渡る。

 

「ちょっと大物来たかな。まぁこの程度なら今のままで狩れるわ」


 そういうと、舞離火は木々の隙間を飛び回り獣のところへ向かった。が、そこにいた獣はもう息をしておらず、地面に血を出しながら倒れこんでいた。


「なによこれ…弓矢…?でもテントの中には弓道師アーチャーはいなかったはず…っ!」


 獣の周りを低空飛行で飛んで死骸の後を眺めていると、後方から弓矢が飛んでくる。


 舞離火は持ち前の察知能力でよけたが、当たりかけたのは手の先、まるで獣を狙っているように感じた舞離火は、誤射であろうと判断し、弓を引いた人間を探し、飛び回った。


 3分ほど飛び回っていると、木々の枝を飛んで移動する影が舞離火の目に映る。

 魔法の重ね掛けを一つ増やし、スピードを上げて接近すると、そこには記憶に新しい狩衣を着た男がいた。


「いっくん?…あ、堺と一緒にいる下僕みたいなやつ!なんであんたがここにいるのよ」


 舞離火はその男の後ろ姿をはっきりと視界にいれるやいなや、大声でその男の名を叫ぶ。


 狩衣を着た男はバレたと思ったのか、何かにあきらめたように舞離火のほうを向いた。


「そんな大声で叫ばないでくださいよ。世界獣が寄ってきます。あといっくんって呼ばないでください、それは師匠だけです。出雲です。凪 出雲ちょうどいい機会ですし覚えといてください」


 出雲と名乗った少年は、堺を師匠として慕い。先ほど舞離火と堺が《異界門ラプラスゲート》で決闘を始めそうになった時も、堺の隣ですこし呆れていた少年である。


 出雲は堺の弟子という時点で、師匠である堺を毛嫌いする舞離火は苦手な存在であり、先の戦闘のあと、舞離火の影で獣が生きていると勘違いし、誤射したせいで舞離火に追われたと、間違ってもいないがあってもいない見解をし逃げ回っていたようだった。


「あのねぇ、私をなんだと思ってるの?別にさっきのも頭狙ってない時点で誤射ってわかるわよ。

 私はただテントの中にいなかったはずの弓道師がどんなやつか確認しにきただけ。

 それに、別に堺じゃないんだし、あんたを殺そうとしたりしないわよ」


 舞離火は魔法を解いて枝に降りながら、別に怒る様子も焦る様子もなく、落ち着いた様子で口を開く。


 舞離火の言葉を聞いた出雲は、口には出さなかったものの、心の中で

 ——師匠だったら殺してたのかよ… と思いつつも、落ち着く。


「で?ここで何してるの?休憩は?テントに戻ってないでしょ。」

 

 少し心配したように舞離火がそういうと、出雲は勘弁した様子で口を開く。


「あー…はぁ、まぁ舞離火さんならいいでしょう、どうせ知るでしょうし、理由とか複雑なことは言えませんが、僕がやってるのは結界の設置ですよ。師匠とレガリアさんからの頼みごとですので」


「は!?ここに堺も来てるの!!どこよ!?」


 堺の名を聞いた舞離火は大声を出して出雲に問い詰める。その大声は森に響き渡る。

 が、堺の名を聞いた瞬間鬼の形相で反応する舞離火を目の前に、少し呆れたように出雲は言葉を返す。


「来てませんよ来てません。はぁーもう、ここまだ結界が甘いんですよ…ほら来ましたよ、あなたが大声出すから、大勢の獲物が」


 出雲がそういうと木々の隙間からでもよく見える獣の大群が舞離火の目に映る。


「ったく、しょうがないわね、やってやろうじゃないの!!」


 舞離火はそう意気込むと魔法を5重に展開した。




―——仮想世界———


 出雲と舞離火が世界獣の群れと戦闘をしている最中、親友と師匠である怜と堺は修行に明け暮れていた。


「《世界が空に散らばりし禁書の影よ、その断片をもって我が身体を加速させよ。身体強化・青》」


「これが青ですか…、やっぱりまだ変な感じがしますね…ぞわぞわするっていうか…」


 怜は慣れない魔法の詠唱をし、まずは魔法を発動する練習をしていた。


 まだ慣れないせいか、それともアニメや漫画のように炎出すなどの魔法じゃないせいか、感動というよりは感じたことのない魔法にかかる感覚にぎこちない感覚が残っていた。

 

「んーまぁまぁやね、ここはできて当たり前や。身体強化は基本3個の出来はええな。

 どうや魔法の感覚は慣れてきたか?」


 堺が怜にそう聞くと、怜は少し悩んだ表情をして答えた。


「わからない…ですかね、詠唱してるだけで、自分が出したっていう感覚がなくて、僕が頼んで誰かが代わりに僕に魔法をかけてるみたいっていうか」


 怜のその言葉を聞くと、堺はお!っと思ったのか、まるで九字であたりを引いたような表情をし、すこしうれしそうに口を開いた。


「ええ感じやね。その感覚は正解や。魔法の発動は君がしてるわけじゃないよ。

 詠唱の中にもあるように、《禁書》っていうまぁこの世のルールに詠唱使って呼びかけてるみたいなもんやねん魔法って。」


 そういいながらまたもや得意げに説明を始めた堺の話を、怜は少し難しい表情で聞く。


「でや、こっからが本題、魔法を使うのは正確には君じゃない、《禁書》や。

 簡単に言うと、君は飼い主で、《禁書》っていうペットに、魔力使って詠唱とかで呼びかけて魔法を発動させてるって感じや」


 堺がそういうと怜は少し納得したような表情をして、魔法の発動に映ろうとした。


「どうや?その感覚やとあともうちょっとでつかめるって感じやな」


 堺はそういうと怜のほうを見て、少し考えた表情をしながらデバイスを取り出し操作する。


「よし、ほな、とりあえず詠唱有りで戦闘中の魔法発動を安定させてみ!ほらこれ」


 そういって、さきほど出した剣を怜に投げつけながら、堺はデバイスで初心者でも倒せるスライムを出す。


「え?っちょ、え?このスライムを、倒すんですか…?」


 怜は投げられてきた剣を避けて、目の前に現れたスライムとにらめ合いながら坂印問いかける。


「せや、それ倒してみ、別に強くないし、攻撃されてもデコピンぐらいの痛さやわ。

 でもスライムには物理体制があるから魔法のかかった人間の攻撃じゃないとあかん。

 せやから動きながらの魔法発動、それを慣れるまでやってもらうで」


 堺がそういってもいまだ状況を飲めこめずに立ち止まる怜にスライムが突進する。

 その攻撃はまるで猫のパンチのようにかわいらしく、よわよわしいものであったが、慣れない怜は痛みより恐怖心によりしり込みをする。


「ほら、立ち上がって、剣拾いや。あ、いうとくけど僕は手助けせえへんから。がんばってな」


 そういうとなにか言いたげな表情を噛み殺しながら、怜は剣を握りぎこちない構えを取った。

 

 


 




 




 


 


 


 

 


 

 


 


 

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