歴史とファンタジーが交錯する仄暗くも優しい愛と命の物語

落ち着いた筆致から質量と秘めた闘志を感じる、非常に安定感のある作品です。

幼少期、主人公の祖父の葬儀から始まる冒頭、陰鬱とした因習を感じさせる閉鎖的な「ムラ」の立ち位置と「死」の概念が印象的です。
若干のホラー要素を含みながらも、激動の時代「昭和」を歴史的に追って成長する主人公たちの生活や葛藤は紛れもない地に足のついた近現代史でした。

その中で、主人公「月子」のヒーローとして登場する少年は、どこからどう見てもファンタジックな異形の美少年。
ただ、そのファンタジー加減が浮世離れしない絶妙な匙加減で物語の核を成す大事なアクセントになっています。

そして、ファンタジー少年はブレることなく最後までファンタジーを貫きますが、読み進めれば読み進めるほど近現代史に馴染んでいくという、作者様のストーリー構成力とキャラクターの巧みな作り込みに感嘆します。

物語全体を通して仄暗い「死」の概念が色濃く付きまといますが、
核の部分はむしろ真逆で、優しい愛と命の物語です。

成長と共に否応にも聞こえてくるWW2の凄惨な足音。
その戦前、戦中、戦後を駆け抜けた主人公と見守る周囲の激動の人生に追随し、
読み終えて充足感を覚えること間違いなしの秀作です。

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