第36話 明かされる2人の出会い
千影さんがオーナーのアパートを見学した俺達は、再び彼女の家に戻ってきた。
戻って早々、千影さんは配信部屋を藤原さんに見せるため別行動をとる。
リビングに戻ってきた俺と千恵美さんは、手が空いている三島さんに千影さんと出会ったきっかけについて訊く…。
「オレが初めて千影と会ったのは、ある会社の中途採用の時でした。オレがいた会社は業績不振で倒産したんです」
「中途採用の時? ナンパじゃなかったのね」
俺も千恵美さんと同意見だ。意外な出会い方だな…。
「今でこそふざけてるオレですが、若い頃は真面目だったんですよ。一応ね」
「そう…。話を続けてちょうだい」
「面接が始まるまで待合室で待機するように言われたんで、向かったんです」
「そこで千影と会ったのね」
「はい。恥ずかしい話ですが、アイツを一目見た瞬間惚れてしまいました…」
「? 一目惚れのなにが恥ずかしいの?」
俺もそう思う。変な話じゃないよな?
「“漫画かよ!?”とか言われると思いまして…」
「三島君。案外デリケートなのね?」
ニヤニヤする千恵美さん。
「だからさっき言ったでしょ? 若い頃は真面目だったって」
気まずそうにする彼は、わざとらしく咳払いをする。
「オレは営業・千影は事務希望だったみたいですが、同い年のせいなのか手間を省くためか知りませんが、2人同時に一次面接をしました。結果は後日という流れです」
「面接の後は?」
「面接が終わった時、昼近くだったんですよ。一目惚れした千影をもっと知りたいと思ったオレは、アイツをランチに誘いました」
「三島君から誘ったんだ? やるじゃない」
「いてもたっても、いられなかったので…」
やはり三島さんの行動力は凄いな。俺はできないと思う。
「クー。お前は真面目そうだが、行動力や積極性に欠けてそうだ。気になる女を見かけたら、早めに声をかけたほうが良いぜ。待ってるだけじゃ変わらないからよ」
「はい…」
せっかくの忠告だ。ありがたく受け入れよう。
「そのランチ中、思ったより話が弾みましてね。千影もオレのことが気になっていたみたいで…。あの時は舞い上がりましたよ~」
気になる女子からの好意を知ったら、誰だってそうなるだろう。
「一通り話が済んだ後、互いの就活成功を祈りつつ連絡先を交換しました。ランチはオレがおごり、解散した訳です」
「なるほどね~。交換してからは何度も会ってるの?」
「いえ。〇ineではマメに連絡を取り合ってましたが、直接会うことはそれ以降なかったですね。どこに住んでるか知りませんし」
「三島君のことだから、訊いたとばかり…」
「距離感間違えてドン引きされるのを避けたかったんですよ」
千影さんへの想いは本物だったんだな…。
「そんなある日のことです。千影から『直接会って話したいことがある』という連絡を受けまして…」
関係を進めたのは千影さんからか。
「もちろん承諾したオレは、あの時ランチした店を会う場所に指定しました。2人が知ってる場所の方が好都合ですから」
「それで…、千影は三島君になんて言ったの?」
千恵美さん、結構食い付いてるなぁ…。
「『金欠でピンチ~』でした。女子は男より金がかかりますからね。ある程度貸すことも考えたんですが…」
貸す以外なにがあるんだ? 俺には思い付かない…。
「冗談半分で『オレと一緒に住まない?』と言ったんですよ。2人で住めば家賃とかを半分にできるし、節約できることは多いでしょ?」
「そうしたら…?」
「『それ良いね!』でした。千影は賛成してるし、オレもアイツがそばにいてほしいので、すぐ同居を始めました」
「あの子、警戒心なさすぎでしょ。彼氏でもない男と同居するなんて」
ツッコむ千恵美さん。
「オレもそう思って訊いたんですが『あんたは信頼してる』と言ってくれたので、それ以上訊くのは止めました」
もしかして一目惚れしたのは、三島さんだけでなく千影さんもなのか…?
「同居後も就活した結果、オレ達は別々の会社になりますが内定をもらいました。就職すれば同居する必要はなくなりますよね? それを恐れたオレは…」
三島さんは何をしたって言うんだ?
「既成事実を作ることにしました。30が目前だったのもあるので…」
「それは千影から聴いてるわよ。『お互い30になる前にヤろうぜ!』って言ったらしいわね」(31話参照)
「千影のやつ、そんなこと話したんですか?」
三島さんが驚くのは無理ない。千恵美さんに会いに行ったことは聴いてると思うが、そこまで踏み込むとは思わないよな。
「…それをきっかけに、オレ達は付き合う事にしたんです」
「よくわかったわ。色々訊いて悪かったわね」
「気にしないで下さい」
今の話を聴いた限り、千影さんはまだVTuberになっていない。その経緯も知りたいところだが、それは別の機会で良いか。
……階段を下りる音が聞こえる。千影さんと藤原さんも用件が済んだので、リビングに戻ってくるだろう。
「2人がそろそろ戻ってくるな」
三島さんが音のほうに目をやる。
「そうね」
「オレは邪魔になるし、ソファーに退散するか~」
彼は立ち上がり、またソファーに寝っ転がる。
……2人がリビングに戻ってすぐ、千影さんが口を開く。
元既婚者の女性が集うアパートの管理人になった俺は、運命の出会いをする あかせ @red_blanc
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