第35話 同い年なの!?

 千影さんの家に着いた、俺・千恵美さん・藤原さんの3人。着いて早々、千影さんの彼氏の三島みしま健司けんじさんに会う。


気さくというか、お調子者というか…。個性的な人なのは間違いない。


三島さん以外の4人はダイニングテーブルに腰かけており、彼だけは近くのソファーに仰向けで寝っ転がっている…。



 「改めて…、よく来てくれたわね」

千影さんは微笑みながら、俺と藤原さんを観る。


「俺はほぼ関係ない立場なのに、お邪魔してすみません…」

千恵美さんや藤原さんのように、近い時期の勧誘をされてないからだ。


「何言ってるの。君は歳の割にしっかりしてるし、2人とは違った形で関わるかもしれないから、無関係じゃないと思うわよ」


2人とは違った形…? そんなことがあるだろうか?


「千影~。オレ自己紹介してねーんだけど、スルーすんの?」

三島さんが体を起こし、俺達のほうを観る。


「あんたのことなんて、3人共興味ないと思うけど?」


「ひどくね? いくらオレでも傷付いちゃうぜ~」


「俺は…、あるんですけど」

千影さんと出会ったきっかけとか色々。


「あたしもある」

千恵美さんも賛同する。


「……」

藤原さんは本当にないようだ。


「麻美ちゃんに興味を持ってもらえるように、少し話しますか~」

三島さんは立ち上がり、千影さんの横に立つ。


その後、彼女の肩に手を置く。


「オレは三島健司。千影とはになる」


「え!?」

「嘘でしょ!?」


俺と千恵美さんはほぼ同時にリアクションをとる。てっきり年下とばかり…。

彼女もそう思ったから声に出したんだろう。


「…そんなに驚くところか? 歳言っただけだぜ?」


「あんたがバカだから、ワタシより年下だと思われたのよ」


「マジ? 若く見られてるな~、オレ」


「はぁ…」

ため息をつく千影さん。


「わりーけど、仕事のことは訊かないでくれ。仕事とプライベートは、きっちり分けてるんだ。千影みたいにな」


その考え自体は珍しくないし、納得できるんだが…。


「ということは、サウちゃんの動画を観たことあるんですか?」

千影さんのテンションも、今と動画の時では全然違う。


「千影がVTuberになって間もない時はある。動画を観るのはオレの性に合わないから、さっさとリタイアしたが」


あくまで俺の予想だが、三島さんはじっとするより動いているほうが合ってそうだ。



 「三島君。忘れる前に君に言っておきたいことがあるの」

真面目な顔をした千恵美さんが口を開き、彼を観る。


「…何でしょう?」

さっきまでのふざけた様子とは一変し、凛々しい顔になった。


プライベートもその顔でいれば良いのに…。って、俺が言う事じゃないな。


「あなたの軽い性格についてどうこう言うつもりはないけど、千影を悲しませたら絶対に許さないから!!」


長女として、妹を気にかけてるようだ。鬼気迫っているな…。


「御心配には及びません。いくらオレでも、浮気なんてしませんよ。あれは最低でクズの奴がすることですから」


「そう…。忠告はしたからね」


「胸に刻んでおきますよ、千恵美さん」


三島さんの言葉が真実であることを願うばかりだ。



 「健司の話はとりあえずここまでにしましょうか。本題に入れないし」

千影さんが三島さんの話を打ち切る。


「オレの出番は終わりだな。んじゃ、退散するわ~」

三島さんは再びふざけた感じに戻り、ソファーに向かう。


「ワタシがオーナーをしているアパートは、ここから4件隣なの。これから一緒に観に行きましょうか」


千影さんが椅子から立ち上がる。


「そうね」

千恵美さんも続いた後、少し遅れて藤原さんも無言で立った。


2人と違って、俺がそのアパートを利用するとしたら最短で大学卒業後だ。タイムラグがあるし、2人の観察の邪魔になってはいけないな。


俺は一番後ろになるよう、タイミングを調整した。



 アパートに向かう途中、俺は考え込んでいる藤原さんに声をかける。千影さん達に会ってから、彼女は全然話していないからだ。


これぐらいの気遣いができないと、管理人失格だろう。


「藤原さん。何か気になることでもあるんですか?」


「やっぱりあの人無理…」


相性が悪いのはわかっていたので、予想の範囲内だ。


「…あのチャラ男は、シキと千恵美さんに任せる…」


俺としては少しずつでも距離を縮めて欲しいが、慌てることじゃないか。


「はい。俺達が何とかするので安心して下さい」


「お願い…」



 ……千影さんがオーナーをしているアパートに着いた。2階建てで、上下3室ずつあるようだ。外観は花恋荘よりキレイな印象を受ける。


このアパートには花恋荘でいう“管理人室”はなく、コンパクトな造りだ。普段から管理人がいなくても何とかなるんだな…。


偶然にも『201号室』に入居者がいないようなので、俺達はお邪魔することになった。


…広さは1Rで変わらないようだ。玄関そばにキッチンがあるのは同じで、トイレや風呂も近くにある。多少の差はあれど、花恋荘と間取りはほぼ変わらないようだ。


これなら違和感なく移れるな。早めに知れて良かったぞ。



 アパートの下見が終わり、再び千影さんの家に戻ってきた俺達。このままリビングに戻るかと思いきや…。


「藤原さんには、2階にあるワタシの配信部屋を見せるわね」

千影さんは2階を手で示す。


「…よろしくお願いします」

軽く頭を下げる藤原さん。


「2人は先にリビングに戻っててくれる?」


「わかったわ」


「はい」


俺と千恵美さんはリビングに戻ることにした。



 リビングに戻ると、三島さんは変わらずソファーに寝っ転がっている。俺と千恵美さんは気にせず、テーブルの椅子に座ることにした。


…三島さんが千恵美さんの前に腰かけた。


「千影と麻美ちゃんは?」


「配信部屋を案内するそうよ」


「ふ~ん」


…特に話すことがないので、沈黙が続く。


「三島君と千影が知り合ったきっかけって何?」

突然千恵美さんが彼に話しかける。


「気になりますか?」


「なるわね」


俺も気になる。千恵美さんが訊いてくれてありがたい。


「では、千恵美さんのリクエストに応えましょう」

三島さんは語り出すのだ…。

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