第19話 佐賀県は復活したい

 時は一八七六年、四月。廃藩置県が起こってからなんやかんやあった時代である。


「おい佐賀! 落とし前つけやがれ!」

 自宅で寛いでいた佐賀の家に、とある男が刀を持って押しかけてきた。

「えっ、何事!? 三瀦みずま、まずはそん物騒な刀ば下ろしてもろうて」

「黙っとけ!」

 この時、佐賀は当時の三瀦県に併合されたのだ。

「僕なんもしとらんばい……無実や……」

「けど、お前の県の民が政府に楯突いたんだぞ!」


 当時、廃藩置県後に武士たちが特権を失い、なんか悔しくてイライラしていたので、隣の国の朝鮮を武力で侵略しようという、自己中心的で最悪とも言えそうな意見、征韓論が世に広まっていた。

 結果的に、世界を旅して政治を学んできたチーム『岩倉使節団』の人たちは、そんな意見よりも国内政治を優先することを進めることを求め、結果的に征韓論は敗れた。


 だが、それに文句をつける奴もいた。佐賀藩の武士であり、明治初期の政治家であった江藤新平えとうしんぺいは、征韓論を支持していたが、それが叶わなかったため官職を辞めた。その後憂国党と組み、自身が中心となって佐賀県で反乱を起こした。

 反乱を治めるために、大久保利通は追討政府軍を指揮して鎮圧した。後にこの反乱は『佐賀の乱』と呼ばれるようになる。そして、佐賀県への制裁として、佐賀県は三瀦県に併合された。


 一方の三瀦県は県の規模が小さく、県としては未熟だと政府から判断されたため、どこかしらの県と合併する必要があったのだ。要するに、ちょうどよかったのであると思っている。


「お前の県の民、つまり、お前が悪いんだぞ! 反省しろ! 領土よこせ!」

「それが本音じゃろ! 消えとうなかよー!」

 そんな佐賀の願いは叶わず、県の全域が三瀦県と合併された。




「うぅ、悲しかばい……なして……」

 佐賀県はやはり、自身が合併されたことが悲しかった。

「文句言うなよ! 政府に楯突いたのが一番悪いんだからな!」

「うぅ、ばってん……」

 気づけば合併されてから四ヶ月も経っていた。

「お茶!」

「自分で注ぎんしゃい……」

「俺忙しいの! なんでか知らないけど今日福岡に呼ばれてるし!」

「ばってん、三瀦は今日は外になんて出歩かん方がよか気がすっ……三瀦んこと占うぎんた、全てん運勢最悪やったばい」

「でも福岡の命令断ったら、俺殺される気がするから行かないと!」

 三瀦はそう言うと、部屋から出て行った。おそらく本人の言った通り、福岡に会いに行ったのだろう。佐賀は占いの結果が当たる気がしたので、とりあえず出ていく三瀦に手を合わせた。


 すると、外から聞きなれない破裂音が鳴った。


 そして、扉をバンと開ける音。佐賀は三瀦が怒って帰ってきたのだろうと思い、急いでお茶を持っていた。

「ごめんなさい、今注いだ!」

「あれ、佐賀……でおうとーよね?」

 そこにいたのは、三瀦の体を持った福岡だった。地味に床が赤く濡れている。

「福岡、なしてこけー……」

「三瀦県は解体するばい。あ、そんお茶飲んでよか?」

「え、どうぞ……ちゅうことは、佐賀県は復活でくっと?」

 佐賀はそう聞く。福岡はキョトンとした後、笑顔で首を横に振った。

「無理ばいー! それにしたっちゃこんお茶そこまで熱うのうてよかね!」

「え、あいがとう……独立できんって、どがんこと?」

 すると、今度は三瀦の家に長崎が入ってきた。


「では約束通り、佐賀さんの土地は私がいただいてよろしいのですね?」

「うん、よかよー!」

「ようなか! いくら長崎ん同じ肥前だけんといってん、佐賀でん独立運動起きとーし、独立させてもろうても……」

 佐賀はそう福岡に聞くが、福岡ははぁとため息をつく。

「そげん文句多かなら、三瀦んごとしてしまうよ?」

 福岡は佐賀に銃を向けた。恐ろしくなってしまった佐賀は、とにかく何度も頷いた。




 結果的に、佐賀は長崎県となった。三瀦の残った地域は福岡に吸収され、全ては丸く収まった……訳がない。

「お願い、長崎。独立させてくんさい!」

「えぇ……またその話ですか? 私は神に祈らなければいけません、その話はまた後でお願いします」

 佐賀県民は三瀦時代から長崎時代の七年に渡り、ずっと復県運動をしていた。その気持ちは佐賀も同じで、常に長崎へ独立したいと伝えていた。

 長崎は首を横に振る。しかし佐賀は粘る。

 すると、長崎の家の扉がノックされた。

「おや、誰でしょうか。みなさん私の邪魔をするのがお好きなようでして……佐賀さん、まだ話があるのなら少々お待ちください」

 長崎はそう言うと、佐賀を残して外へ出て行った。


「どちら様でしょうか」

「私よ」

「あら、東京さんでしたか」

 東京は長崎に手土産を渡す。

「珍しいですね。どうしたのですか」

「佐賀の話よ。何年も独立を求める声が上がると、さすがに政府も無視できなくなるのよね……だから、私からもお願い、独立させてあげて」

 東京はそう頼み込んだ。頼み込んだとは言っても、東京も政府の指示に従っているだけなので、これは実質政府からの命令であった。

「そうですか、分かりました」

「ありがとう長崎!」

「いえ、こちらこそご足労いただきありがとうございます」

 東京はその言葉を聞くと、ほっとして教会を去って行った。


 東京が完全に見えなくなると、長崎は教会に戻った。扉を閉め、長崎はため息をついて言った。

「佐賀さん、盗み聞きは良くないですよ」

「ちゅうことは、佐賀県は復活でくっと?」

「ええ、そうですよ。分かったらさっさと荷物をまとめて下さい。あなたの県民が待っています」

「やったぁ!!!」

 こうして佐賀県は佐賀市を県庁所在地とする県となり、復活を果たしたのだった。

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