第18話 札仙広福

 話はなんとかまとまったようだったが、これに納得していないのは福岡であった。福岡は三都になりたかった。

 福岡は慣れた手つきで拳銃をどこからか出し、それを愛知に向けた。

「わっ、それ本物なん!?」

「へえ、福岡くんのは小さい銃なんだ。狩猟とかするの?」

「兵庫も北海道も、のんきすぎるヨ! ここお店だからしまって福岡!」

 神奈川は焦りだし、いそいでお店の人に一般人を近づけないよう指示した。

 これまでステーキを食べながらその様子を見ていた岐阜は、急いで愛知の側による。

「愛知、福岡になんか恨まれることしたのか!?」

「心当たり何もにゃーよ?」

 愛知は困惑顔でそう答える。福岡はいつもの笑顔で言った。


「三大都市圏ん中で一番目立っとらん愛知にお願いがあるっちゃけど……三大都市ん座ば、譲ってもらえん?」


 その言葉にカチンと来たのか、愛知は青筋を立てていた。

「ね、ねえ福岡……その銃を愛知から遠ざけたって……」

 すかさず岐阜が福岡に交渉した。しかし福岡は、岐阜の顔をじっとみつめ、何かを考えてから言った。

「『福岡さん』だ。あいらしか子なら『福岡くん』って呼んで欲しかばってんな」

「俺可愛いらしいよ!?」

「はぁ?」

「三重さんが俺のこと可愛いって言っとった!」

「あのな岐阜、三重はババアだで自分より年下はのんでも可愛い思うんだわ。それと……」

 愛知が銃を向けられた状態でフォローした。

 愛知もここで何もしないわけにはいかなかったので、このすきを利用してどこからか刀を取り出した。福岡はそれには驚き、すぐに愛知から銃を離して距離を取った。

「え、ちょ、愛知危ないわよ! 今すぐしまいなさい! 福岡も!」

「銃刀法違反……」

 東京は急いで静止に入り、広島は小声でそう言った。

「確かに俺は東京大阪に比べると、人口も少にゃー。なんなら神奈川の方が多い。それでも、東名阪の一つとして……工業が集積する東海地方の中心地の誇りもある。それに……」

 愛知は間に入る東京をさっとどかし、素早く滑らかな動きで福岡に刀を向ける。刀の先が福岡の鼻に当たりそうになり、福岡は思わず腰を抜かした。


「あんまり三都を舐めん方がええがね」

「っ……」

 愛知は力強くそう言うと刀をしまい、味噌カツをもう一度頼んだ。何か固いものが落ちる音がして、福岡はハッとした。手に持つ銃を見ると、床には斬り落とされた銃の一部が落ちていた。

「そういやあ、お前んところは信長がおったな。やけん刀が……やっぱり三大都市には適わんとか……」

「分かったらとっとと勉強して来い。山口になら教えてもりゃーるだろ、どれだけ実力がにゃーか」

 福岡は愛知を殴りたくなった。今すぐに頭を撃ち抜きたくなったが、銃が使えなければどうしようもない。福岡は今回は諦めることにした。

「……そげんことよりも勝つ方法ば一人で考えるばい。しゃあ、俺たちもご飯食べよう! 広島は俺ん隣な!」

「え!?」

 福岡はそう言って、一緒にやってきた他のメンツとご飯を食べ始めた。




 福岡は先ほどの騒動で宮城、広島から怖がられているため、二人からは距離を取られている。

「お店の人から菜箸借りれてよかったー!」

 北海道は自分に合う橋がなかったため、菜箸で大盛りのラーメンを食べていた。

「い、いがっただね……」

「あ、あはは……」

 宮城と広島はそう返事をするが、福岡は以前として黙ったままである。しばらくし、隣に距離を置いて座っている広島にずいっと近づいた。

「ねえ広島ー」

「はっ、はい!!」

 広島は驚いて悲鳴のような返事をした。

「俺って都会ばいね? 名古屋県よりも都会ばいね?」

「え、ええと、一旦離れてもろうて」

 広島は曖昧に答えてそっと福岡から離れた。

「福岡くんって女の子好きだよねー」

 ここで北海道が空気の読めない発言した。隣に座る宮城が冷や汗をダラダラ流し始めた。このままいくと、福岡は怒るのだろうか。

(北海道さん……広島には悪いどもこごはそっとしておがねぁーどダメなやづだよ!!)

 宮城は心の中で広島に合掌した。福岡は広島にさらに話しかける。

「広島ちゃんあいらしかね。九州にならん?」

「や、そういうのは山口で……」

「男は別にいらん」

「けど九州にも熊本さんやら、佐賀さんやら、長崎さんが……」

「そ、そごまでにしてけでよ! 広島困ってっぺ?」

 ここで宮城が助け舟を出した。広島がこれ以上ないほど嬉しそうな顔をした。

「そうやなあ、変な質問してごめんね」

「あ、はい」

 福岡は広島からそっと離れて、少々恐怖に包まれた食事を再開した。


「うーん、まだ食べ足りないなぁ」

 北海道はすでにラーメンを完食していた。

「北海道さんは体が大きいけぇ、やっぱり食べる量も多いくなるんか?」

「そうみたいだなぁ。よし、焼き鳥頼んじゃうかな」

 北海道は宮城にピンポンを押してもらった。

「みんなもいる?」

「北海道さんが勧める焼ぎ鳥だら食ってみでえ!」

「私も……」

「俺も食べるばい。ばってん俺たちお腹いっぱいやけん少しで良かね」

 食事中の恐怖が少し和らいだ気がした。北海道は焼き鳥をパパッと頼み、ワクワクしながら待つことにした。



「お待たせしました、室蘭焼き鳥です」

 こうして運ばれて来たのが、北海道室蘭市の三大グルメの一つと呼ばれる、室蘭焼き鳥であった。

「ありがとう。早速食べるばい」

「うん、美味しいから北海道に来た時も食べてね」

 三人はそれを一本ずつ取り、口に入れた。三人とも美味しいと言うので、北海道は嬉しくなっている。

「美味しい……!」

「だよね!」

「でも、気になるんじゃが……」

 広島が言いにくそうに言った。


「この肉、鶏肉じゃないのぉ……」

 どこか申し訳なさそうに言う広島に、北海道は何もなかったかのように言った。

「あ、そうそう。室蘭焼き鳥は豚肉なんだよ」

「これでほんに焼ぎ鳥なのが!?」

 宮城がツッコミを入れた。福岡は室蘭焼き鳥が気に入ったようで、二本目を食べ始めていた。


「焼き鳥だよ」

「でも豚肉……」

「焼き鳥だよ」

 北海道は圧をかけた。

「俺が焼き鳥って言えば焼き鳥なんだよ。だって北海道の食べ物だし」

「……おう」

 宮城は北海道に、福岡とは違った恐怖を覚えた。

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