第17話 首都の座が欲しい

 仕事を終えた大阪、兵庫が共に飲みに行っていた。いつもなら居酒屋だが、今日は東京が行ったという、いろんな種類の料理が出てくるレストランに行ったのだ。東京がおすすめするレストランは気になる、と兵庫がそう言ったのだ。

 大阪はお好み焼き、兵庫はこれまた東京が美味しいと言っていたこのレストランのパンケーキを頼んだ。

 大阪はお好み焼きを食べながら、いつものように言った。

「なんで東京が首都やねん……! 俺は昔から経済を支えてきたんやぞ!? なんなら天下の台所はこの俺やで!?」

「お前またほんなん言うのかいな。人口も敵わんねんさかい諦めろや」

 兵庫がこれまたいつも通り適当にあしらう。しかし、兵庫は東京と大阪どちらが嫌いかと言われれば普通に「東京」と答える。

「俺が首都でええやろー!! 周りの都市の人口かて多い! それに、東京のとなりの埼玉なんて人口が多いだけで観光地あれへんやろ!」

「まあ確かにほらそうやけど言い過ぎだぞ」

「北関東は田舎!」

「京阪神以外の関西も田舎やで。ほやけど、京都も田舎っぽいな」

 すると、その会話を聞いていた京都が現れた。


「兵庫はんはえらい楽観的なおつむなんどすなぁ。羨ましおす(アホ野郎! 京都は日本の首都なんやで!)」


「はぁ!? なんでここに……」

「奈良姉ここに行きたいって言うたんどす。それにしても先ほどの発言は聞き捨てならへんどすえ?」

「奈良、久しぶりやな!」

 黒いオーラを纏った京都に圧をかけられる兵庫を放っておき、大阪はお酒をゆっくり飲む奈良に話しかけた。

「……奈良は田舎とちがう。県民みんながのんびり生きてるだけや」

「あー、まー、まあそうやな。日本の都やったし。せやけど大阪に比べたら田舎やで」

「大阪はん、奈良姉は疲れてるさかいそっとしとくれやす(奈良姉に話しかけるな!)」

 先ほどから京都は表裏激しい言葉を話している。



 そんな会話を遠くで見つけていた化身たちがいた。

「とーちゃん! あそこに関西の奴らが集まってるヨ!」

 神奈川はハンバーガーを食べながら言った。東京はたこ焼きを食べる手を止めた。

「みんなに勧めたからね。やっぱりここのたこ焼き美味しいわ」

「ねぇねぇ、アーンして」

「いいよって言いたいところだけど、あっちから嫌な会話が聞こえてきたのよね。……あ、ちょっとあちらで話してきます。大阪たちを見つけたので」

「かしこまりました、東京様」

 東京は秘書に話をしてから立ち上がり、関西のメンバーが集合している席へと向かった。神奈川も当然先を立ち上がり、着いていく。


「日本の首都は俺や!」

「僕や!」

 大阪、京都が言い争う中に、東京は一人入って行った。



「二人とも、首都は私よ。わかったらその口塞いで帰りなさい」

「そーだそーだ! お前らとーちゃんに敵うわけねーヨ! 俺も着いてるし」


 二人は一瞬黙ったが、すぐに言い返した。

「おやおや、やっぱし若いって取り柄なんどすなぁ。新しいことにチャレンジする都市はやっぱしちゃいますね(黙れチビ。なんもできひんくせに)」

「自分首都首都言うといて、奥多摩地方は田舎なんやさかいな! 山梨やで山梨! 奥多摩は山梨やで!」

「山梨に失礼でしょ!」

「その発言の方が失礼や思うけど」

 東京と大阪は言い合いを続けた。そして兵庫は神奈川と言い合い始め、京都は奈良と高みの見物をし始めた。


 東と西の都市が集まるとなると、やはり黙っていないのは愛知である。

 実は愛知も車の試運転の帰りで、ちょうど夕食の時間となったのでここまで来たのだ。また、この試運転には岐阜も連れてこられていた。

 愛知は味噌カツ、岐阜はステーキを頼み、ちょうど愛知の味噌カツが届いたところだった。


「おうおう、おみゃーら面白そうなことしとるな!」

「ちょ、愛知! 味噌カツ来とるけど!?」

 愛知は岐阜の制止をふりきって間に割って入って行った。

「厄介な男が来たわね」

「そうだネ、愛知も大阪も、人口が僕より少ないくせに」

「日本三大都市が集まったな! さあ何で勝負する? まあ負ける気はにゃーけどな!」

「やったれ大阪、お前が首都やら癪やけど東京も愛知もおるさかいな」

「やったるで!」

 こうして謎の勝負が始まりそうになったが、ここで神奈川と京都が口を開く。


「ちょっとー、三大都市が集まってる中悪いけど、僕もいるんだヨ」

「喋らへんかったのは僕だけど、忘れられると寂しいどすえ(日本の首都は僕だ! 忘れなやクソ!)」


 遠くで兵庫と奈良がため息をついた。

「あのなぁ、京都。こら俺らみたいな田舎()がでしゃばるとこやないぞ」

「兵庫言うと嫌味にしか聞こえへんけど、間違うてへんわよ、京都。神奈川も人口多いだけでそんなん言うてへんで」

「そんなことないヨ! 神奈川には鎌倉があるネ! 水族館もあるヨ! 人口もとーちゃんには負けるけどあるヨ!」

 神奈川はそう言い返したが、京都は姉から言われたのがかなりショックだったようで、何も喋らなくなってしまった。


 すると、その場にまた新たな人物たちが現れたのだ。


「このお店のお箸小さいねぇ。ねえ徳島、そっちに大きなお箸ある?」

「あんたが大きいだけじゃよ、北海道さん……あと私広島です」

「ずんだ餅美味しい! 食ってみろよ福岡!」

「ごめんな宮城、俺はヒヨコ一筋なんや」

 札仙広福、日本の地方中枢都市も集まっていた。

「なんだかみんなが集まってたから俺らも来てみたんだ。なんていうか、京都くんが首都なんてありえないよ。首都は東京だもん」

 北海道は(彼と比べれば)小さい京都を見下ろしながら言った。

「確かに君たちは素晴らしい都市だけど、私ら全国主要七大都市に入っとらんのじゃけぇ」

「まあ、隣さ大都市があれば主要にはならねぁーもんな!」

 広島、宮城がそう言う。

 予想もしていなかった四人の発言に、東京、愛知、大阪はうんうんと頷き、神奈川は残念そうにしょぼくれ、京都は悔しそうにハンカチを噛んでいた。

「ということで、三都は私たちなの!」

「そんなぁ、とーちゃん、僕だって都会だよ」

「私の隣にいたのがダメだったわね」

「譲らない、とーちゃんの隣は僕」

「ま、三都は私たちなの。京都くんも諦めなさい」

「チッ」

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