彼女は割れたガラスのコップだった
@upapapapa_33
第1話 私が1歩踏み出すまで、あと365日
私は、普通だ。
普通すぎるほどに、普通。
誇れることとか、得意なこととか。ひとつくらいあったっていいのに。
普通。または、それ以下。
容姿だって、性格だって、成績だって、特技だって、せいぜい中の下。
好きなこと、も忘れちゃった。
だって私が頑張ったことなんて、みんなの一歩に抜かされる。
あーあ、せめてちょっとくらい、自分を好きでいられたらな。
それか、私を認めてくれる人がいたら。
なんて、教室の窓枠に切り取られた青空を見ながら考えていた。
ねえ、私のいいところってなに?って、誰もいない空に投げかけて。
次、体育だな。バレーボールだったっけな。
ああ、嫌だなあ。
私は、普通だ。
まあ友達も普通にいる。普通の話をする。普通に朝挨拶して、普通に笑って話す。
ああ、普通だなあ。
友達が多いってなるほど人気者でもないし、
いじめられてるってなるほど友達がいないわけでもない。
ああいっそ、こんなこと言うのはきっと失礼で、ただのわがままだろうけれど。
いっそ、いじめられるほどに友達がいなければ。
いっそ、それを理由に死ねればなあ。
あーあ、馬鹿らしい。
毎日こんなことを考えて、学校に来て、考えて、授業が終わって、考えて、考えて、考えて、帰りたくもない家に帰る。
普通な私が生まれた私の家も、きっと普通なんだ。
きっと。
こうやって殴られるのだって。
乱雑に閉じられた扉に隔たれ、敵意の声が遠ざかっていく。
私はぐらぐらと痛む頭に手をやった。
私は普通だ。
スマホの通知音。
大丈夫、大丈夫。
私は普通だ。
泣いたりしないし、弱音だって吐かないし、そう。だって、私には仲間がいる。居場所がある。
この金属の板の中に。
最初はちょっとした暇つぶしのつもりだった。
何となく選んだ高校は、幼い私が描いていた想像とは程遠くて。なんだか生きた心地がしなくて。
なんとなく目に付いたSNSに繋がってみただけだった。
今では毎日何人かの友達(いわゆるネッ友、だろうか)とくだらないことを話しながら笑っている。
今日学校でこんなことがあった。
こんなことをした。
こんなことが面白かった。
私が過ごす日常とは別の、小さな拠り所だった。
ここにいる時はなんだか呼吸が楽になる。
大丈夫。大丈夫。
まだまだいけるよ。
私は普通だから。
今日も私はもそもそと味のしない朝食を摂り、特別混んではいないけれど座れもしない電車に乗る。
イヤホンを乱雑に耳に突っ込み、音楽を流す。
外の音が遮断されるとなんだか落ち着いて、ほうと息をついた。
ああ、また今日も、考えて、考えて、考えてるくせにからっぽな一日を過ごすんだなあ。
電車の揺れに身を任せながら漠然とそう思った。
どうせ頭使うならもっと有意義に使えよ。
だから普通なんだろ?
色のない通学路。
いや、色はあるけれど。
つまんないなあ。
彼女は割れたガラスのコップだった @upapapapa_33
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彼女は割れたガラスのコップだったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます