過去からの電話
西しまこ
第1話
真夜中にスマホが振動した。電話だった。しかし、すぐに切れてしまった。
着信を見ると、登録していない番号だった。しかし、その番号に強烈な既知感を覚え、ショートメールで返した。
――もしかして、忠くん?
――そうだよ
すぐに返信が来た。
――電話はまずいから、メールでお話しよ?
――うん
わたしは布団にもぐって、スマホを操作する。
――久しぶりだね。十年以上ぶり? どうしたの?
――うん、久しぶり。実は僕、結婚しようと思って
――おめでとう!
――……悩んでいるんだ。結婚してもいいのかなって
――どうして? 好きじゃないの?
――好きなんだけど、でも不安で
――どうして不安なの?
――わからない。ただ、僕、思い出して。すごく好きだった、なつみちゃんのこと
――ありがとう
――あのとき、あんなに好きだったのに
――うん
――……僕、ほんとうは別れたくなかったんだ
――うん、でもあのときはしかたがないよ。……結婚する相手、好きなんでしょう?
――うん
――結婚式はいつなの?
――今月末
――すぐじゃない!
――うん。……ただ、僕、いつも思い出していたんだ。なつみちゃんとのこと。忘れられない
それは、わたしも、と思ったけど、そうは返信しなかった。
――ありがとう。でも、きっと、結婚して子どもが生まれたら、今の彼女のことがもっとずっとだいじになるよ
――そうだね。……ありがとう
――じゃあ、また。お幸せに
――ありがとう
――またね
わたしは「またね」と書きつつ、番号の登録はしなかった。そして、一連のやりとりを一度読み返して、それから全て削除した。
これはもう、終わった恋だから。
わたしは隣の寝息と、向こうの部屋の小さな寝息を感じつつ、また眠りにおちた。
了
一話完結です。
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☆これまでのショートショート☆
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過去からの電話 西しまこ @nishi-shima
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