毎日小説No.23 作業用BGM

五月雨前線

1話完結


 その男は、大学受験に向けて勉強に励んでいた。


 勉強して、勉強して、やがて気付いた。


 作業用BGMのチョイスに、勉強の質が左右されることに。


 その日の気分に合ったBGMを探し出すことが出来れば、勉強の内容がすらすらと頭に入ったのだ。


 厄介だったのは、何のBGMが自分にマッチしているのかが日によって異なっていたことだ。ある日はゲームミュージックを流したらとても集中出来たし、ある日はピアノのバラードを流せば集中出来た。ヒップホップのトラックを流したら、ノリノリで勉強出来て1日で過去問を30年分解いたことすらある。


 やがて男は、その日のBGMを選ぶ時間が勿体ないと感じ始めた。最短でも30分、長ければ数時間はかかるBGM選びの時間の間に、ライバル達は勉強を積み上げている。しかしBGMが無いと勉強出来ないし……むうう、どうすればいいんだ。


 悩んだ男は結論に辿り着いた。この世には無限にも等しいBGMが存在する。きっと、どんな時でも自分にマッチするようなBGMがどこかにあるはずだ。それを見つけ出せば、時間のロスなく勉強に集中出来るのではないか。


 そう考えた男は3週間かけて世界中のBGMを研究し、遂に自分に完全にマッチしたBGMを見つけた。それは、ウルグアイの活火山の脈動する音であった。その重低音の音こそ、自分に完全にマッチする理想のBGMであった。


 早速男は24時間以上かけてウルグアイに行き、そこで勉強を開始した。すぐに国の職員に見つかり、必要な書類を取りに一度日本に戻り、許可を得てから活火山の真横でようやく勉強を開始した。時折降り注ぐマグマで参考書が燃えることが多々あったが、とても集中出来るので何も気にならなかった。


 そんな受験勉強の日々を一年程過ごし、遂に男は受験の舞台へ殴り込んでいった。



***

 ……え、その男の合否? 言わんでも分かるやん。もちのろんで全落ちやで、全落ち。七浪のくせに何ウルグアイまで行ってんねん、アホちゃうか?


 あ、ワイ? ワイは大阪でヤクザやってる山田っちゅうもんや。よろしくな。


 ほんでな、その男の母ちゃんが、「うちのバカ息子を何とかしてくれ」ってワイに泣きついてきたもんやから、ワイが男をタコ部屋に連れてく羽目になってもうたんや。


 勘弁してほしいわほんまに。たたでさえ組のことで忙しいのに、追加で馬鹿な浪人生の面倒なんて見てられへんよ。


 せやから、さっき活火山の音に聞き入っていた男を突き飛ばしてきたんや。これで万事解決やろ? ワイは面倒な仕事引き受けんで済むし、男は大好きな活火山の音を永遠に聴いてられる。まさにWin-Winの関係やがな、がはははは!


 あ、今ボスから招集かかったけえ、ワイは組に戻りますわ。ほなさいなら! 作業用BGMなんて歌詞が無ければ何でもいいんやから、そんなことに時間割かずにちゃんと勉強するんやで〜!


                           完

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