Dark Witch
妹尾優希
第1話
女の腕の中に抱かれし男は、眠るようにして静かに息を引き取った。
もう、目覚めない。
もう、声を発しない。
もう、動かない。
男の魂は身体から切り離されて、天国へと召されているだろう。
だが、男の最期を看取った女は、彼の死を受け入れることが出来なかった。彼女は呆然としたまま、心の中で自問を繰り返す。
何故、彼が死ななければならない?
一体、彼が何をしたというのだ?
男はただ、常に女の側に存在して彼女を支え、外敵から守ってくれていただけだ。
「残るは魔女だけだ! 早く殺せ!!」
魔女。
そう、確かに女は魔女である。
だが、それが何だというのか?
何故、周りを取り囲んでいる甲冑姿の者達は自分を殺そうとする?
いや――彼らの正体は、もう分かっていた。
彼らは、魔女狩りを生業としている騎士達だ。
魔女である女にとっては、忌々しい存在でしかない。
魔女。それは、人々にとって畏怖すべき存在。創世の時代より存在しているとされ、代替わりを繰り返しながらも現世に至るまでに断絶することがない、特別な力を有している女性。
魔女となった者は、自身に宿した強大な力でもって人々を威圧し、恐怖を振りまく。
だが、全ての魔女が悪行に身を染めていたわけではない。むしろ、歴史の表舞台に立つことなく、人里離れた場所でつつましく生涯を終える魔女の方が圧倒的に多い。
現世の魔女である彼女も、その内の一人である。
女はただ、腰を落ち着ける居場所が欲しかっただけだ。その為だけに故郷を離れ、伴侶となった男と共に果てしない旅を続けてきたのだ。
それなのに、目の前にいる騎士達は――そんな女の事情を知ろうともせず、彼女を世界に仇なす魔女だと思い込んで剣を向けている。
魔女とは決して相容れぬ存在。
しかも、彼らは愛する夫を殺した仇でもある。
それならば――。
女は夫の亡骸を静かに横たえると、顔を上げ、周りにいる騎士達を睨めつけた。
瞬間、騎士達の身体が一斉に発火した。
突如発生した人体発火現象は止まることを知らず、等しく騎士達の身に襲いかかる。
やがて、赤い炎に包まれた騎士達の身体はたちまちのうちに炭化し、骨だけとなって崩れ落ちていった。
女は敵である騎士達の末路には目もくれず、天を仰ぎながら高らかに哄笑する。
魔女狩りの騎士達や非力な人間達が思い描く“魔女”を演じよう。
自らの手で屠る命を、最愛の夫へと手向けよう。
こうして、また一人――闇に堕ち、人々に恐怖をもたらす魔女が誕生したのであった。
Dark Witch 妹尾優希 @aggressive_historia
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