「謎」は別の世界へ読者を導く扉である

 時代もの小説には、相反するふたつの魅力がある。
 ひとつは「今とは別の世界」に読者を導くこと。
 もうひとつは、「今と同じ人間」を見いだすことだ。

 違う時代と同じ人間を結ぶ「扉」となるのが、趣向を凝らした「謎」だ。マーダーミステリーの外伝として書かれている本作の事件には様々な謎がちりばめられ、それが鮮やかに解かれていく。
 19世紀ロンドンのことを知らなくても、解決に必要な情報は全て問題編で提示されているのでご安心いただきたい。
 また、よくできたミステリーがたいていそうであるように、その解決を見ているだけでも面白い。何せ、推理をせずに事件を解決する探偵が登場するのだから、そのあっと驚く解決法にも注目だ。

 どんな時代でも、人々は変わらない……なんて言うと使い古された表現だが、「謎」を通じて、今とは違う「別の世界」に案内してくれる。そこでは、今と同じように人々がくだらない遊びをしたり、人を激しく憎んだりしている。
 一時だけ、別の世界を覗き込んでみてほしい。本作にはそれにふさわしいだけの謎が描かれている。

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