諸君、私はミステリが好きだ。
諸君、私はミステリが好きだ。
諸君、私はミステリが大好きだ。
という風に私はミステリが大好きであるが、まさかこの場所で、このカクヨムという投稿サイトでここまでのレベルのものに出会えるとは想像していなかった。
この物語が始まる一章についていえば、その世界設定からくる特異性の楽しさ及び分かりやすさ、そして殺人事件への絡ませ方と出てくるキャラクターの立ち方。どれをとっても上質で無駄がなく、あまりにもミステリとして優れすぎている。
その上で読者は二転三転その真相に踊らされるだろう。ああ、これほどのものを読めてしまっていいものか……!!
そんな上質なミステリが二篇続いた後の第3章。この物語の真髄はここに集約されている。
さあ、読者よ思い出すといい、確認するといい。この作品がどのような目的でどのようにして今ここに掲載されているのかを。
信頼されたロジックの上で無軌道に暴れまくるミステリの真髄をその目で見るといい。
そしてこれを読み終えたあなた、この作品を世界に知らしめて欲しい。
この作品にはミステリを愛するものが求む才能が全て詰まっている。
踊らされる転がされた我々にできることはただ一つ、これを読むべき人達に届けることだ。
ああ世界よ、早くこの珠玉の才を見つけ給えよ!!
時代もの小説には、相反するふたつの魅力がある。
ひとつは「今とは別の世界」に読者を導くこと。
もうひとつは、「今と同じ人間」を見いだすことだ。
違う時代と同じ人間を結ぶ「扉」となるのが、趣向を凝らした「謎」だ。マーダーミステリーの外伝として書かれている本作の事件には様々な謎がちりばめられ、それが鮮やかに解かれていく。
19世紀ロンドンのことを知らなくても、解決に必要な情報は全て問題編で提示されているのでご安心いただきたい。
また、よくできたミステリーがたいていそうであるように、その解決を見ているだけでも面白い。何せ、推理をせずに事件を解決する探偵が登場するのだから、そのあっと驚く解決法にも注目だ。
どんな時代でも、人々は変わらない……なんて言うと使い古された表現だが、「謎」を通じて、今とは違う「別の世界」に案内してくれる。そこでは、今と同じように人々がくだらない遊びをしたり、人を激しく憎んだりしている。
一時だけ、別の世界を覗き込んでみてほしい。本作にはそれにふさわしいだけの謎が描かれている。
本作はKADOKAWAから発売されたマーダーミステリー『アストリアの表徴 ─名探偵アルフィー最後の事件─』の販促の一環として連載された外伝小説である。しかし外伝と侮るなかれ、この作品は単体でしっかりしたヴィクトリア朝ミステリでもあるのだ。
ヴィクトリア朝を舞台とし、「解決すれども推理しない」異端の探偵アルフィーの活躍を描く本作は、一章では「Twitter」、二章では「ウマ娘」というヴィクトリア朝には一見そぐわないモチーフを外連味たっぷりに用いながらも、ミステリの基本に忠実な構成をしている。
推理の難易度自体は高くなく、初心者でもおおよそ想像は着くだろう。しかし丁寧に張り巡らされた伏線を鮮やかに回収する手腕、そして「推理しない」探偵であるアルフィーが如何に事件を解決するか、にはミステリの旨味が詰まっている。文章もキャラもユーモラスでとっつきやすい、初心者にもオススメの良作ヴィクトリア朝ミステリだと胸を張って言えるだろう。
と、ここまでが二章までの話である。
二章までのこの作品は「初心者にもオススメの良作ヴィクトリア朝ミステリ」であった。あえて悪いように言うと、そこ止まりであったとも言える。
だが三章で……奴は弾けた。
何がどう弾けたかは是非その目で確認していただきたい。その『ヤバさ』は語って聞かせるより読んだほうが早い。
とにかく、初心者向けミステリであるかに思われたアルフィーは第三章でいきなり異常ミステリへと羽化する。いや、正確に言えば布石自体はあったと言えなくもないが、しかしアクセルブッちぎり過ぎである。分かる人に分かるように言えば「これもうメフィスト賞だろ」となる。
恐らく、この作品に類似するであろうモノは今後一切現れないだろう。そう言い切れるほどの怪作だ。ミステリ好きなら是非ご一読することを強く、強く薦める。