第12話 自家用車

 私のエッセイには異色作があり、勝手に車が喋りだす。

 傍から見れば邪道なのかもしれないが、私からすれば自然なことであり、だからこそ私の紀行文の主軸として活躍してくれている。

 ただ、実際にデミオと旅に出る割合は五分といったところであり、今回はその楽しさと同居する難しさの話をしていきたい。


 自家用車を使って旅をしていく場合、最も大きい利点がその自由度の高さである。

 道が続く限りはどこまででも進むことができ、鉄軌やバスのように限られた場所までしか行けないということは少ない。

 実際に阿蘇の山野などを回る際には非常に優秀であり、手軽によい景色を拝もうと思えばバイクと並んで最適な手段と言えよう。


 その一方で自家用車の旅だからこその制限があり、一つは飲酒である。

 酒を飲んでしまえば抜けるまで運転するわけにもいかず、自ずからどこで酒を飲むかを厳選し、いつまで飲むかを決めねばならない。

 少し気になる酒があった場合でも試すことができず、そのまま買って持ち帰るか諦めるかの二択となる。

 自由の代償とはかくも大きいものなのかと思わずにはいられないが、それはそれで別の楽しみ方をすることもできるため、必ずしも悪いだけではない。


 自家用車での一人旅における大きなメリットは荷物を多く運べることもあるだろう。

 例えば土産一つを買うにしても、列車などで回る際には土産を宅配便に回すなどして荷物を減らす工夫が必要となる。

 この時、他に家人が居れば問題はないのだが、独り身では受け取りや配送時期の工夫が不可欠で、期間が長ければそれすらも難しい。

 車であればこれを積載して動くことができるので、旅先で要らぬ心配をすることなく、冷やす必要のないものはある程度自由に買って持ち帰ることができる。

 それだけに買いすぎて困るということもあるのだが、そうした後悔も含めて旅の醍醐味であろう。


 この荷物を多く運べるというのは何もモノに限った話ではない。

 人を乗せることも可能なのだが、これは旅先で知り合った方と旅程の一部を共にしたりヒッチハイクに付き合ったりと、ヒトリタビの範疇でも有効なこととなる。

 長距離を普段から運転する方であれば話は別だが、通勤ぐらいでしか車を使わぬ身にとってみれば、これもまたらしい在り方といえよう。


 しかし、この荷物を運べるという利点は、同時に欠点にもなる。

 自動車自体が旅においては相棒であると同時に大きな荷物となり、どこに泊るかを決める上で大きな枷なのだ。

 駐車場のないところに泊めるわけには行かず、地方都市で一杯引っかけようと思えば、駐車場探しをまずは始める。

 これは観光地でも同様であり、整備されているところであれば良いのだが、街中では離れたところに車を停めねばならず、出入りが厄介な場合もある。

 駐車場のない宿に泊まる場合には、土地勘のない街で駐車場を見失うこともあり、出発に戸惑ったことが何度あったことか。

 単純に覚えておけば問題はないのだが、旅行の時の私にそれだけの容量は求められない。


 では、車の中で寝てしまえばいいのではないかと考えたこともあるが、それを快適にしようとすれば車種が限られてしまい、デミオからは冷ややかな目で見られてしまう。

 宿が見つからぬ時に車中泊をすることもあるが、あくまでもそれは緊急避難の一つであって、繰り返せば疲労が蓄積する。

 夏の佐世保で限界を感じたのは懐かしいが、無事に帰るのも大切であり、無理を避けるに越したことはない。


 それでも、車で行く最大の利点、自分の想いに従って進み、自分の想いのままに出会いを求められるというのは何とも魅力的だ。

 没我することも周りに合わせることも自分次第であり、これが時刻表や路線で縛られる他の乗り物との大きな違いといえよう。

 疲れれば休めばよく、長くいたいと思えば気兼ねなく在り続けることができる。

 全てが思い通りというのは言い過ぎにしても、現代において自分を解き放つための相棒と声をかけてもいいのかもしれない。


隔てなき 道を遮る 戸の一つ 開くも勝手 閉じるも勝手


 この一話の下書きを見せたところ、いやにデミオの機嫌が良い。

 故に、ちょっと小突いてからエンジンをかけることにした。

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徒然なるままに~ヒトリタビのススメ 鶴崎 和明(つるさき かずあき) @Kazuaki_Tsuru

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