ぼうけんのしょ

ヲトブソラ

ぼうけんのしょ

ぼうけんのしょ


 どうして、こんなにも痛々しくて、美しいのだろうか。


 いつも通る道だ。駅から降りて商店街が続く。そして、その道はぼくが使う路線の隣を走る競合鉄道会社の線路を跨いでいて、幹線道路の抜け道にもなっているから混雑する。今日は出先から直帰して良いという事だったから、家路に着く学生や夕方の買い出しに出てきた人達に混じってしまった。道の向こうが赤くて眩しいのは、この道が西に向かっているからなんだと今日初めて知った。ぼくと家を隔てる競合鉄道の踏切の棒が降りてきて、鼓膜に不快な警報音が響く。電車が通る方向を指した矢印、何かあった時に押す緊急停車のボタン。あまり歩かない時間だったから、つい色んな所をきょろきょろと見てしまう。周りの人を見渡すと、当たり前のようにぼくの格好は浮いていた。こんな時間にこんな格好で……、それもそうか。まだ、この格好が家に帰るには早いもんな。騒音の塊、音の重量物が近付いてきて、目の前を過ぎる少し手前で空気が押され、その風に目を閉じた。開くと騒音と一緒に連動する車両の隙間が大昔の映画フィルムみたいに、途切れ、途切れに赤い空を映し出していた。


 子どもの頃、家に帰る約束の時間って何時だったっけ?太陽が沈む前?沈んでも明るいうちにって約束だったっけか?今、何時だろう。夕方の被り物のどうぶつが出てくる教育番組はまだやっているんだろうか。公園で野球をやっている子どもっている?カードゲームは?重複したカードの交換に自分達で決めたレートがあるっていう文化は残っているのかな?トンボとかカエルって、この辺りではどこで獲るんだろう?みんなで集まってゲームをする時って、コントローラーを使う順番で揉めたりする?マンガの貸し借りとか………、


 目を強くつむった。急に現れた大きな太陽が眩しかった。

 胸が酷くがさがさしていて、触れるだけで指が痛むんだ。


 ここに来るまでの何万マイルは、どこを通ってきたんだろう?

 必ず等間隔で歩いてきた仲間はまだいる?


 ぼくらは何かを倒しに向かって、その何かは何だったんだろう。


 後ろにいるはずの三人は何処にいる?




 ぼくの今は地図のどこ?


 ざあっ、と、周りの音が動き出し、背中に肩がぶつかって踏切が開いた事に気付く。慌てて歩き出して、前の人に步を合わせた。

 あれ?ぼくはこの人の仲間なんだろうか。後ろの人はぼくの仲間……かな。パーティーは四人のはずじゃ…………ああ、それは子どもの頃にやっていたゲームの話だ。実際の世界ではもっと多くの人が仲間で、もっと多くの人が関係の無い人達だよ。


 でも何かを倒しにいくまでの仲間だよ。


 おわり



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ぼうけんのしょ ヲトブソラ @sola_wotv

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