幸せの重み

わたくし

歩く

 産まれる前の私は母親の胎内に羊水に浸かって、無重力状態になっていた。

 産まれ出でた私を手に抱いた両親は、幸せの結晶の重みを感じたであろう。

 やがて私は重力に逆らい二本の足で立ち上がり、歩き始めた。

 二本の足で自分の重みを感じ、しっかりと大地を踏みしめて歩き始めた。


 学生時代は自分の出来る範囲で、走り・跳び・歩き・体験をした。

 自分の重みが増す毎に、自分の筋力が増す毎に、出来る範囲や世界が拡がっていった。


 どこまででも走って行ける気がした。

 どこまででも跳んで行ける気がした。

 どこまででも歩いて行ける気がした。

 何でも出来る気がした。


 成人し社会に出ると、「責任」と言う重みを感じ始めた。

 そして出来る範囲や世界が段々と狭まっていった。

 ここまでしか走れない。

 ここまでしか跳べない。

 ここまでしか歩けない。

 これしか出来ない。


 やがて、パートナーと出会い「家族」と言う重みが出来る。

 しかしこれは、パートナーと二人で重みを支え合うのだ。

 二人で寄り添い支え合って、歩いて行けるのだ。

 二人の愛の結晶を抱きその重さを感じた私は、増々しっかりと歩かねばと覚悟した。



 今、私は背中に重みを感じている……


「どうだ! かいじゅうパパゴン! まいったか!」

「せいぎのみかたの カズレンジャーとタクレンジャーは つよいのだ!」


「参った! 参った! パパゴンの負けだ!」

「しかし今回は負けたが、次は絶対にお前達を倒してやるぞ!」

「覚悟しておけ! カズレンジャーとタクレンジャー!」


「のぞむところだ! せいぎはぜったいに かつのだ!」

「カズレンジャー!」

「タクレンジャー!」


 二人の子供は私の背中の上で勝鬨を上げる。

 私は背中に伝わる重さに幸せを感じていた。

 二人の子供はやがて、私の背中では支えられない程に大きく重く成長するであろう。

 私は二人が自分の力で人生を歩き出すまで、パートナーと一緒に支えて寄り添い歩いて行く。

 この幸せの重みを力に変えて、私は歩いて行く。


 死して重みの無い灰になるまで、私は二本の足で歩いて行く。

 歩いた先に「ゴール」はある……

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幸せの重み わたくし @watakushi-bun

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