はじめまして

 森の中での鍛錬をルトと共にしていると、草陰から何かの物音が聞こえてきた。


「リト」


 まだ日も明るいのに、魔物が出たのかと警戒を強める。


 ルトへと視線を向けると、近くにあったシャベルを片手に集中している姿が見えた。


「火の精霊よ、俺に力を。ファイアアロー」


 小声で詠唱をし、火を象った形をしている弓を構える。


 ルトよりも一歩進んだ形を成す技がこんな所で役に立つとは思ってもみなかった。


 警戒が強まった頃、風を切る勢いで出てきた生き物に目を見開く。


「犬?」


 前に居た世界では当たり前に飼われていた存在ーー犬に似た動物が現れた。


 犬と同じ耳が付いてはいるが、下手な小型犬よりも大きな動物に、これが魔獣であるとたどり着くまでに時間がかかってしまった。


 それほどまでに無害で愛くるしく見えたのだ。


「もふもふする」


 ルトは魔獣に敵意がないことを感じると、すぐ側に行きその毛並みを触り始めた。


 柴犬のような見た目をしているその魔獣は、触られて幸せそうに見えた。


「リト、飼ったらダメ?」

「ダメだろ!」


 愛嬌のいい魔獣とは言えど、魔獣は魔獣だ。


 危険なことには変わりはないだろう。


 それに母も危険だと言っていた。


「ほんとに?」


 魔獣を持ち上げてこちらへ向けてくる。


 魔獣は首をこてんと傾げて、見ているだけで可愛らしい。


「だ、めだ」


 思わずいいよと言いそうになって、口をとざす。


「大体、母さん達に見つかったらまずいだろ」


「バレなかったらいいんじゃない?」


 ルトはもうこの魔獣を飼うつもりのようで、引く気はないように見えた。


 可愛らしいもふもふとした毛並みを見せながら、リトへと擦り寄るように近付いて来た魔獣に、心が揺らぐ。


「ちょっとだけだぞ!」


「わーい、お兄ちゃんありがとうー」


 棒読みでそう言ったルトに、仕組まれていたのかと思いながら一度許可したから仕方ないと諦める。


 決めた以上は、怒られる時も一緒だ。


 それよりも、前世では犬も飼えなかったルトが幸せそうで何よりと思う気持ちの方が強かった。


 可哀想な立場に居た奴だからこそ、この世界では幸せにと思うのはエゴだろうか。


「リトー、手伝って」


「今行く」


 少しだけ過去への未練を感じながら、ルトと魔獣の元へと向かった。

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親友と双子で転生ってそれマジっすか!〜動物を救うためのギルド作ります!〜 澤崎海花(さわざきうみか) @umika

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