洪水の化石

高黄森哉

洪水の化石


「これがかの有名な洪水の化石です」


 それは、かの有名な洪水で死んだ、昔の人の化石だった。まるで押し花のように石の中に埋まっている。洪水の土石流で埋まって、長い年月をかけ石になった死骸。比喩でもなく、骨はすっかり石に置換されている。これが石でなく、トパーズだと大変綺麗だったりする。


「ノアの箱舟に乗れなかった我々の子孫なのですね」


 骨は魚のようだった。目は巨大であり、頭は扁平である。トカゲのように、いやトカゲそのものだ。馬鹿でかいトカゲか両生類のようだ。


「しかし、その歴史を否定する者どもがいます。宗教的な理由で」

「どういう宗教なのでしょうか」

「我々は、長い年月をかけ、姿かたちを変えて来た、という宗教です。我々はずっと姿かたちは変わっていないのに」


 そういって、化石を説明する博士は、巨大なオオサンショウオだった。その隣で話を聞くのは、二足歩行をした、やはり巨大なオオサンショウウオだった。お手洗いが近くにあり、オオサンショウウオの雄と雌のピクトグラムが掲げられている。博物館の外では、タクシーにオオサンショウウオが乗っていて、客のオオサンショウウオを待っている。そうだ、この世界の人々はオオサンショウウオなのだ。


 

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洪水の化石 高黄森哉 @kamikawa2001

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