僕のとなりで眠る君

青山海里

僕のとなりで眠る君

「んん、違う…。ごめんなさい…」


 となりで寝ていたゆずの声に目を開けると、ゆずは辛そうな表情を浮かべて寝言を言っていた。その目はしっかりと閉じられている。僕はこの光景を、もう何度見ただろう。


「ゆず、ゆず。大丈夫だよ、謝らなくていいよ」


 僕がそう言ってゆずの髪をそっと撫でると、安心したのかゆずの寝言は止んだ。僕の指先をするすると通り抜けていくゆずの髪からは、シャンプーのいい匂いがする。



 初めて一緒に寝た日から、僕の妻のゆずは毎晩こうやってうなされている。いつも同じ夢をみているのか、ゆずはこうやっていつも誰かに謝っている。


 夢の内容を一度だけ訊いたことがある。もしかしたら、起きている間になにかしたら、もうそんな夢にゆずが苦しまなくて済むかもしれないと思ったから。


 でもゆずは、僕には教えてくれなかった。かわりに毎晩僕を起こしてしまっていることに対して、謝ってきた。その顔があまりにも切なくて、辛かった。


 だから僕は今日もこうやって、ゆずのとなりにいることしかできない。僕がただそばで一緒に寝ることしか―。


「優作さん」


 寝ぼけているのか、唐突にゆずが僕の名前を呼んだ。


「なに?」


 僕の声が届いているのかはわからない。目を閉じたままのゆずは、ゆっくりと口角を上げて大きく息を吐くように言った。


「大好きよ。いい夢みてね」


 そう言った直後、またゆずはすやすやと寝息を立て始めた。どうやら今のは完全な寝言だったみたいだ。


 ゆずは今、どんな夢みているんだろう。さっきまでみていた悪夢はもう、終わったのだろうか。


 ゆずがうなされることなく眠るのは、いつ叶うかもわからない、僕の夢の一つだ。


「ゆず、僕もゆずが大好きだよ」


 赤ちゃんのようなきめ細かい頬にそっと触れると、僕は目を閉じた。僕のとなりで眠る君が、いい夢をみられますように。そう、願いながらする

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僕のとなりで眠る君 青山海里 @Kairi_18

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