第4話
パーカーと別れてローゼン・コーヒーを出た後、打ちのめされたような気分でとぼとぼと歩いていた。
アスファルトの歩道の横ではひっきりなしに
それからはどこをどう歩いたか、覚えていなかった。だが、気づくと妻と息子が眠るデータセンターに辿り着いていた。
黒い箱、まるで墓標にも見える物理サーバーが自分の前で物言わずに
――残された者のエゴではないか。
パーカーが放った言葉はまだ自分の心をぐりぐりと
だが、果たしてそれは正しかったのだろうか。もし妻グレイスや息子フレッドが生きていたとしたら、デジタルコンストラクトに話しかける自分を見て喜んだのだろうか。
そして、もしバイオニクス・ヒューマノイドが実用化されたとして。妻や息子と瓜二つの存在ができ、そこに彼らのデジタルコンストラクトがインストールされたとして。自分はかつての自分と同じように彼らを愛することができるのだろうか。
答えはもう見えていた。自分の
本当ならきっとぽとぽとと涙がこぼれるはずなのだろう。だが
決められない。そんな優柔不断さを抱えたまま、
――接続します。
その合成音声が流れると同時に、目の前にある黒い台座型のホログラム発生装置に二人の姿が浮かび上がった。
――お帰り、あなた。
――パパ。お帰り。
立体ホログラムがそう言った。
「なあ、俺、二人のデジタルコンストラクト、消そうかなって思ってるんだ」
僅かな時間をも無駄にしないように本題から入った。二人が悲しげな表情を浮かべる。
――どうして? 私達に会いたくないの?
妻、グレイスが問いかけてきた。
そんなわけがない。会いたくないわけがない。だからこそ、二人を失ってから二年の間、生活を切り詰めてでもレンタルサーバーの管理費を捻出してきたのだ。
――ここにあなたが来てくれさえすれば、私達は一緒にいられるのよ?
グレイスの言葉は、すぐにでも屈してしまいそうなほど甘い誘惑だった。
――後悔がないように毎日精一杯生きなきゃ、でしょ?
どうしたらいいのか分からなくなった瞬間、妻の口癖が頭を
「なあ、グレイス。お前の口癖だったよな。後悔がないように精一杯生きなきゃ、って」
そう問いかけるとホログラムの妻は力いっぱい
「その言葉で気づいたよ。お前もフレッドも精一杯生きたんだよな。後悔がないように、一生懸命生きたんだよな。なら、俺が本当にしなきゃならないのは、お前たちの幻想に
ホログラムはバグでも起こしたように何も答えなかった。
「今まで、ありがとう。でもお前たちのデジタルコンストラクトがなくたって俺はもう大丈夫なんだ。お前達はずっと俺の心の中にいるから」
そう言って、
「さよなら。愛してる、ずっと」
そう
《完》
Soul in the Server watergoods @aquagoods
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