第1章 辺境伯に自分を売る②
訓練場に着いたが、とても広くてビックリした。
百人ほどが同時に訓練で
辺境伯家の
クロヴィス様が私の正面に立ち、ジークが少し
「さて、
「は、はい!」
「とりあえず、魔法を見せてくれ」
クロヴィス様に言われて、私はいつも通りに光魔法を唱える。
「『
両手を前に出すと、そこから光が放たれる。
それを
正直、私ができる魔法はこれだけ。
この光魔法がどれだけ有用なのかは、わからない。
「そ、その、これだけですが……」
「ふっ、それだけかよ」
「っ……!」
見学をしているジークの言葉が聞こえて、キッと睨んだ。
だけど本当にこれだけだから、何にも言えない。
クロヴィス様は私の出した光を見て、あごに手を当てて考えている。
「ふむ……白い光だが、
「ほ、他の色ですか?」
「ああ、私が知っている光魔法なら、オレンジ色の光を出せるはずだ」
「や、やってみます!」
何年も光魔法を使ってきたけど、色を変えるなんて考えたことがなかった。
オレンジ色、白よりも
意識してオレンジ色の光を出そうとして、もう一度魔法を唱える。
すると手の平からオレンジ色の光が出始めた。いつもの白い光よりも温かみを感じる。
出たけど……光はすっごい
光を出すだけでこんなに疲れるのは、初めてだ。
しかも維持もできず、すぐにオレンジ色の光は消えてしまった。
「す、すみません、初めてだったので維持できずに……」
「いや、十分だ。やはり君の魔法は、私が知っている光魔法と同じようだ」
クロヴィス様の顔を見ると、
私の魔法を気に入ってくれたのかな?
「ルアーナ、白い光の魔法は維持できるようだが、どのくらいできるのだ?」
「半日ほどは維持できますが」
「半日だと? 本当か?」
「はい」
屋根裏部屋には太陽の光が入ってこないので、
さすがに最初からできたわけじゃないけど。
「……ふむ、なるほどな」
クロヴィス様は信じてくれたようで、一つ頷いた。
さすがに半日ずっと維持し続ける、という実験はしないようだ。
「光を強くすることはできるか?」
「やってみます」
これは考えたことはあったが、やったことはほとんどない。
屋根裏部屋は
それに光を強くしすぎると屋根裏部屋から光が
どれだけ強くできるかは自分でもわからない。
両手に今まで以上に魔力を込めて、光魔法を放つ。
すると、一気に光が強くなって、辺りを白く染めた。
「うおっ!?」
そんな声が聞こえて、一度光を放つのを
声がした方を見ると、ジークが目を押さえていた。
私とクロヴィス様は光が強くなると思っていたのですぐに目を
「ジーク、大丈夫か?」
「くっ、はい……問題ありません、まだ少し目がチカチカして見えないですが」
「……ふっ」
「おい、チビ。今、笑っただろ」
「あら、見えないんじゃないの?」
「
「
さっきまで私の
いけない、私の能力を見せている最中だから、集中しないと。
「さすがに近すぎてどれくらい光ったかわからなかったな。ルアーナ、光の球のようなものを出すことはできないか?」
「はい、できます。一つしか出せませんが」
「それを出して、上空に
「やったことはありませんが、やってみます」
こうしてみると、私は自分の光魔法を全然わかっていない。
伯爵家で
クロヴィス様の指示通り、光球を出して上空に浮かせる。
ここは建物内だけど
地面から十メートルほどで、光球が小さくなり始めた。これ以上は光球が維持できなくなりそうだ。
「あそこが限界のようです」
「そうか、悪くはない。では強く光らせてみろ」
「はい」
上空にある光球をさっきと同じように、強く発光させる。
さっきよりは弱いが、それでもこの広い訓練場全体を白く染めるほどの光が放たれた。
「ふむ、最初からこれほどの光を放てれば十分だろう」
「ありがとうございます」
これからに期待、ということらしいけど……私の魔法は、何の役に立つのだろう?
クロヴィス様は私の魔法の有用性がわかっているようだけど。
「父上、聞いてもいいですか?」
「ジーク、なんだ?」
「そのガキの光魔法は、何の役に立つんですか? ただ光を放っているだけだと思いますけど」
ガキって言われるのは
私もそれは聞きたかった。
「ふむ、私も本などの情報でしか知りえないが、光魔法は魔物に対してとても有効な
「光魔法が? 殺傷能力があるような魔法には見えませんが」
「光魔法の強い光を当てた
「まさか、そんなことが?」
「
クロヴィス様が言葉を
「……いや、なんでもない。とりあえず、ここには魔物がいないから実戦で試すしかない」
「では私はすぐに前線に出る、ということでしょうか?」
「ああ、魔導士は後方で魔法を唱えるから、死ぬほど危険なわけじゃない。だが
「かしこまりました」
もともと前線で戦うつもりでここまで来たのだ。
私はここで自分の価値を証明しないといけない。
覚悟は、決まっている。
訓練場での私の希少魔法の検証が終わった。
「ルアーナ、明日にはすぐに前線へと向かってもらう。やってくれるな?」
クロヴィス様がニヤリと笑ってそう言った。
「はい、もちろんです。その代わりと言ってはなんですが、衣食住を保障していただければと思うのですが……」
「もともと魔導士を受け入れる予定だったのだから、そのくらいは当たり前だ」
「ありがとうございます!」
よかった、とりあえず野垂れ死ぬことはなくなったみたいね。
「ジーク、ルアーナを部屋に連れて行ってくれ」
「はぁ、やっぱり俺か。わかりましたよ」
ジークはまたため息をついたけど、さっきよりは
クロヴィス様に一礼してから、私はジークの後を早歩きでついていく。
「よかったな、父上に認められて」
「そうね、本当によかったわ」
「……気になってたけど、お前なんで俺にはタメ口なの?」
「えっ、同い年だから。それにジークもタメ口じゃない」
「本当に十五歳なのか俺はまだ疑ってるけどな、お前チビすぎるし」
「失礼ね。満足に食べさせてもらえなかったから、小さいだけよ」
「……そうか」
あっ、また不幸
だけどジークもそこまで気にしてないみたいだし、
「あと、俺の名前はジークハルトだ。ジークっていうのは父上と……母上だけが呼んでる
「……わかったわよ、ジークハルト」
長くて呼びづらいけど、しょうがない。仲良くない人に愛称を呼ばれても、いい気はしないでしょう。
「ほら、着いたぞ。お前の部屋はここだ」
ジークハルトが
「わぁ……!」
思わず私は
とても広くて
大きな窓もあって外の景色が見える。外は綺麗な庭になっていた。
「こ、ここを私が一人で使っていいの?」
「当たり前だろ、何言ってんだ」
「だってこんな広くて
「……ふん、そうか」
ジークハルトが何か
真ん中に立って部屋中を見回してから、ソファに
とてもふかふかで、そのまま
すごすぎる……!
「はっ、本当にガキみたいだな、おい」
「むっ……」
少し
「今のうちに快適な部屋を楽しんどけよ。死んだらここには
「ご、ご忠告ありがとう」
ジークハルトはそう言ってから部屋を出て行った。
心配してくれた? 意外と
だけど彼の言う通り、しっかり前線で
これからね、
……そういえば、人とこんなに会話したのはいつ
生贄として捨てられたので、辺境伯家に自分を売ります ~いつの間にか聖女と呼ばれ、溺愛されていました~ shiryu/角川ビーンズ文庫 @beans
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